暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
不透明な光 1
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纏う男は。
 軽く触れるだけで良い筈の口付けを、深く長く、執拗に。
 ねっとりと、いやらしい音を立てながら味わった。

「……っ、……!」

 息苦しさで倒れそうになるレネージュの腰を引き寄せて支え。
 満足げにうっとりと微笑む男。

 そして、神前で誓いを立てた夫婦は肩を寄せ合い。
 関係者に祝福されながら、礼拝堂を後にした。



「な……っ、んじゃありゃーッッ!」

 レネージュは怒りを込めて、ヴェールを床に叩きつける。
 ヴェールは、ふぁさあ……と、絨毯の上にゆっくり広がり落ちただけで。
 妙な空振り感が余計に腹立たしい。

 教会の外で村の衆に向けて花束を放り投げた後。
 酔っ払いが出始めていた宴会には参席せず、ドレスも着替えないまま。
 御曹子とは別の馬車で、屋敷へと連れてこられた。
 天蓋付きのベッド以外には何も無い、あからさますぎる寝室だが。
 外はまだそんなに暗くもない夕暮れ時。
 男が来るまでは、そう緊張することもない。

 ベッドの端にドカッと腰を下ろし、腕を組んで「ふん!」と開き直った。

「グリークめ。人前ですることじゃないでしょ、あんなの!」

 吐き捨てるように呟いて、うっかり口内の感触を思い出してしまう。
 耳まで赤く染め、身悶えつつ頭を抱えた。

「……っ、初めてだったのに……!」

 容姿だけは一級品の幼馴染みと脅迫紛いの結婚。
 人前で恥ずかしい口付け。
 とんでもない、最低な式だ。
 このドレスだって、できれば着替えてしまいたい。

 そう思って、胸元に手を運び。

「おい、アンタ」
「…………っ!?」

 突然響いた声に驚いて、顔を跳ね上げた。

 正面にある、そろそろと黒くなり始めた空を切り取る縦長な窓枠に。
 いつの間にか黒い人影が立っている。
 肌も髪も、着ている服や靴まで全部が真っ黒。
 唯一、目だけはレネージュの髪が黒っぽくなったような紅色だ。

「だ、誰!? なんで窓に……ここ、三階よ!? バルコニーも無いのに!?」

 レネージュが慌てて立ち上がっても。
 黒い人影は微動だにせず、冷静に言葉を続けた。

「銀髪男と本気で結婚したいと思ってんのか?」
「銀髪? グリークのこと?」
「名前なんぞ知らん。ただ、本気じゃないならやめとけ。喰われるぞ」

 『喰われる』?
 妙な言い回しだな、とレネージュは首を傾げる。

「あたしだって、あんな奴との結婚なんて嫌よ。しなくて済むならしない。でも、村の死活問題なんだもん。仕方ないじゃない」

 ぷぅっと頬を膨らませると、相手はほんの少し目を丸くして笑った。

「なんだ。人身御供か」
「え。そう、だけど。改めて言葉にされると、なん
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