不透明な光 1
[5/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
纏う男は。
軽く触れるだけで良い筈の口付けを、深く長く、執拗に。
ねっとりと、いやらしい音を立てながら味わった。
「……っ、……!」
息苦しさで倒れそうになるレネージュの腰を引き寄せて支え。
満足げにうっとりと微笑む男。
そして、神前で誓いを立てた夫婦は肩を寄せ合い。
関係者に祝福されながら、礼拝堂を後にした。
「な……っ、んじゃありゃーッッ!」
レネージュは怒りを込めて、ヴェールを床に叩きつける。
ヴェールは、ふぁさあ……と、絨毯の上にゆっくり広がり落ちただけで。
妙な空振り感が余計に腹立たしい。
教会の外で村の衆に向けて花束を放り投げた後。
酔っ払いが出始めていた宴会には参席せず、ドレスも着替えないまま。
御曹子とは別の馬車で、屋敷へと連れてこられた。
天蓋付きのベッド以外には何も無い、あからさますぎる寝室だが。
外はまだそんなに暗くもない夕暮れ時。
男が来るまでは、そう緊張することもない。
ベッドの端にドカッと腰を下ろし、腕を組んで「ふん!」と開き直った。
「グリークめ。人前ですることじゃないでしょ、あんなの!」
吐き捨てるように呟いて、うっかり口内の感触を思い出してしまう。
耳まで赤く染め、身悶えつつ頭を抱えた。
「……っ、初めてだったのに……!」
容姿だけは一級品の幼馴染みと脅迫紛いの結婚。
人前で恥ずかしい口付け。
とんでもない、最低な式だ。
このドレスだって、できれば着替えてしまいたい。
そう思って、胸元に手を運び。
「おい、アンタ」
「…………っ!?」
突然響いた声に驚いて、顔を跳ね上げた。
正面にある、そろそろと黒くなり始めた空を切り取る縦長な窓枠に。
いつの間にか黒い人影が立っている。
肌も髪も、着ている服や靴まで全部が真っ黒。
唯一、目だけはレネージュの髪が黒っぽくなったような紅色だ。
「だ、誰!? なんで窓に……ここ、三階よ!? バルコニーも無いのに!?」
レネージュが慌てて立ち上がっても。
黒い人影は微動だにせず、冷静に言葉を続けた。
「銀髪男と本気で結婚したいと思ってんのか?」
「銀髪? グリークのこと?」
「名前なんぞ知らん。ただ、本気じゃないならやめとけ。喰われるぞ」
『喰われる』?
妙な言い回しだな、とレネージュは首を傾げる。
「あたしだって、あんな奴との結婚なんて嫌よ。しなくて済むならしない。でも、村の死活問題なんだもん。仕方ないじゃない」
ぷぅっと頬を膨らませると、相手はほんの少し目を丸くして笑った。
「なんだ。人身御供か」
「え。そう、だけど。改めて言葉にされると、なん
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ