17部分:第十七章
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依子は急に姿を消した。
「消えた」
速水はそれを見てすぐに今いる場所を変えてきた。前に出て跳ぶ。
今までいた場所を紫の蝶達が舞ってきた。忽ちのうちに今までいた場所が紫の妖しい世界に包み込まれたのであった。
「危ないところだったようですね」
「そのまま甘い霧の中で旅立たせてあげるつもりだったけれど」
依子はその紫の中にいた。着地し皇帝の側にいる速水に顔を向けていた。
沙耶香は彼女から間合いを離している。今度は背に黒い翼を出してきていた。
「そうはいかなかったわね」
「こちらも長いお付き合いです」
速水もその右目を不敵に笑わせながら依子に述べてきた。
「貴女のことはわかりますよ」
「そう」
依子はその言葉に表情を変えず返す。
「危ないところではありましたが」
「残念だったわね」
「さて、面白い余興だけれど」
沙耶香はその背の黒い翼を羽ばたかせてきた。見ればその羽根は鳥のものではなく黒い炎であった。地獄の炎の翼であった。
「今度は私が」
黒い翼から無数の炎の矢を放つ。それで依子を焼き尽くさんとする。
「さあ、これはどうするのかしら」
「その炎で私を焼き尽くすつもりかしら」
「長い付き合いで名残惜しいけれど」
炎の中で呟く。
「運がよければこれでさようならね」
「さようなら。いい言葉ね」
依子に無数の黒い炎が迫る。しかし彼女はそれを見てもまだ動こうとはしない。
「けれど私は人にさようならと言われる趣味はないの」
「面白い趣味ね」
「お別れは自分から言うもの」
そう沙耶香に応える。
「永遠のお別れをね」
「あら。ではこれをどうするのかしら」
沙耶香は依子に対して問い返す。
「この炎を」
「簡単なことよ」
依子の黒い目の色が変わった。黒から青にとなったのであった。サファイアのようでいてそうではない。サファイアの清らかさはなく邪まなものがある。美しさは魔界の美しさであった。
「さあ蝶達よ」
青い目で述べる。
「増えなさい。私の為に」
蝶達が増える。闇の中に次々と浮かび上がる。その蝶達を己の前にやって炎と相対させてきた。
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