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黒魔術師松本沙耶香  紫蝶篇
10部分:第十章
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第十章

 カードを上に投げるとそこに太陽が現われる。その熱で蝶達を溶かすのであった。
「太陽ね」
「そうです。おわかりですね」
 依子に言葉を返す。
「太陽は邪悪なるものを照らし出し溶かすもの。ですから」
「どんどん変えてくるわね。見事なまでに」
「貴女もね」
 沙耶香は依子に述べる。
「見事なものよ。ただ紫の蝶だけを出すのではないから」
「ただ。思うところがあります」
 速水が依子に問うてきた。
「何かしら」
「その蝶は。こうして攻撃や防御に使うだけではないですね」
「さて」
「隠しても無駄よ」
 今度は沙耶香が問う。
「女の子達を消したのもこの蝶達なのね」
「ふふふ、わかったのね」
 依子はその言葉を笑って肯定してきた。
「そうよ。この蝶こそが少女達を消したのよ」
「どうやってですか?」
「知りたいのね」
 速水の言葉に笑ってきた。笑いながら言葉を続ける。
「それなら」
「むっ」
 速水も沙耶香も依子がコートを翻したのを見た。するとその白いコートの裏に色とりどりの蝶達がブローチのようにして飾られていたのであった。
「そういうことだったのね」
 沙耶香はその蝶達を見て述べた。
「そうして女の子達を」
「わかったのね」
 沙耶香のその言葉に笑って返してきた。
「そうよ。この蝶達こそが」
「女の子達であると」
 速水がここで言う。
「そういうことですね」
「ええ。だから」
 依子はまた述べる。
「この女の子達は私のもの。美しい蝶達になって永遠に私の側にいるのよ」
「面白い趣味ね」
 沙耶香は依子のその言葉を聞いて笑ってきた。
「女の子を蝶に変えて身に纏うというのは」
「そうでしょう?ただし」
「ただし」
「この娘達を盾にすることはないから。安心してね」
 笑ってそう述べる。依子は戦いにおいて誰かを盾にする等という卑劣な真似はしない女だった。そのようなことをせずともどのような相手とも戦える、そうした確固たる自信が存在しているからである。彼女もまたひとかどの魔道の者であったのだ。
「それはいいわ」
「私は正々堂々と貴女達を倒せるわ。それに」
 さらに言う。
「この娘達は私のもの。一人たりとも傷つけるつもりはないわ」
「蝶にしているからこそかしら」
「時々ね。戻してあげるわ」
 沙耶香と同じ妖艶な笑みを浮かべてきた。
「そうして身体を楽しむのよ」
「貴女も。好きね」
「それはお互い様ね。じゃあ今は」
 沙耶香に応えた後でまた言う。
「下がってあげるわ。またね」
「あら、もうなのかしら」
「今夜はほんの挨拶」
 その中性的な顔にすっと笑みを浮かべての言葉であった。
「だからね」
「淡白ね。夜はまだ長いわよ」
「誘ってくれているのかしら」

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