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逆さの砂時計
自暴自棄になった男
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「俺が封印される前、人間はここまで大きな文化を持ってなかったんだよ。王国とかも一応点在してはいたが、大体は村とか集落だったな。生活水準が変わってるなら情報の波及の仕方も変化してんじゃないかと思ったんだが、この様子じゃ無駄骨だ」

 人間は面白いくらい変わらない。
 だからこそ、喰い甲斐があるんだが。

「なるほど。言われてみれば、貴方はアリアの救世紀に居たのですよね? 神代(かみよ)に生きていた方とこうして会話しているとは、不思議なものです」
「むしろ俺は、人間があれだけ大好きだった英雄を完全忘却してる薄情さに拍手を贈りたい気分だぞ。誰だったか、英雄の偉業は末代まで語り継がれるでしょう、とか(うた)ってたんだが。ものの見事に消えてるな」
「英雄?」
「アリアが現れる前、魔王とか呼ばれてたレゾネクトを、言葉通り命懸けで異空間に吹っ飛ばした、神々の守護を受ける勇者とその仲間がいたんだよ。奴らはレゾネクト諸共この世界から消え、人間共に英雄として崇められたが、それから二十年も経たないうちにアリアが現れて、この世界に残ってた悪魔を狩り始めた。結果、本当に世界や人間共を救った英雄の栄光を退けて『創造と救世の女神アリア様』が現在に伝わってるわけだ」

 アリアが天上に属する女神なのは疑いようがない事実だが。
 教会で見た創造神の教典は、虚飾と後付けのバカバカしい娯楽本だった。
 中には言葉の解釈一つで意味がひっくり返る項目もあって。
 暇潰しとしては丁度良い程度に面白かったが。
 創造神とは、ずいぶん派手に祀り上げられたものだと感心する。

「アリアは本物の創造神ではない、と?」
「ああ。俺は創造神を知らないからなんとも言えないが、少なくとも天上の神々は勇者一行がレゾネクトを吹っ飛ばした辺りでこの世界を手放してる。奴らの被害も相当だったからな。今でも人間共を見守ってんのはアリアだけだろうぜ」

 クロスツェルの顔が強ばった。

 少し前まで立派な神父してたんだし、衝撃っちゃ衝撃か。
 善行を積んでも褒められないし、悪行に走っても咎められないってのは。
 常に何かにしがみついてないと自意識も保てない虚弱生物には、まあまあ苦痛かもな。

「オマケに、実在しない神とやらが大繁殖してるってのがまた笑える。大方アリアの影響を好ましく思わない、自己中心的な人間の権力者共が広めた、人心掌握の為の偽像なんだろうが……神々が気付いたら怒り狂うぞ、あんなご都合主義」

 神々による世界の終焉、か。
 それはそれで見てみたい気はする。

 いや。
 巻き込まれるのは面倒だし、やっぱ要らねぇ。

「……アリアは、この世界に現存する、唯一の女神なのですね」

 うつむいたクロスツェルが、自身の顎に指を当てて眉を寄せる
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