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逆さの砂時計
自暴自棄になった男
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として受け入れる傾向が強いし」
 白い壁に(もた)れ掛かって腕を組むと、クロスツェルも俺に(なら)って建物に背中を預けた。
 「……人間生活と心理に長けているのは、やはり人の心に付け入る悪魔だからこそ……ですか?」
 「ただの観察結果だ。何千年何百年、個体が死んで世代とやらを重ねても、人間の根本にある性質ってのは変わってねぇんだよ。利己的で排他的。自分に都合が良ければ神の恩恵やら奇跡だと喜び、悪ければ悪魔の仕業で世界の終わりだと悲嘆する。邪魔になった者は連係してせっせと追い出し、不快にならない使える奴だけを歓迎する集団心理の内に居るクセして、自分がそうされるのは嫌なんだぞ? 滑稽(こっけい)過ぎて笑いが止まらないな」
 時間を掛けて育てた子供も、いずれ大きくなって親を(うと)む。
 意思を交わせる間はそれなりの愛情を向け合うらしいが、老人になって会話すら難しくなると、大体の親は本格的に捨てられる。
 世話で疲れた自分を護る為に他人へ親を託す子供もいれば、一人でどうにかしてくれと放置する子供もいる。たまには親を殺して自分も死ぬ子供もいる。心の底から頑張ったねと笑いながら看取る子供はごくごく稀。
 愛情を注いだ子供に捨てられ、村や集落に身を寄せ合い、虚ろになった老人達が最終的に求めるものは、救済だ。これまでの自分は何だったのかという迷いに、都合の良い答えをくれる存在を求める。
 そんな奴らに、神秘な現象はさぞ心地好い物だろう。
 一ヶ所に点いた火は、我にも我にもと呼び求める声を伝って瞬く間に燃え広がるものだ。
 俺がアリアの名前を知ってたのも、そうした噂に助けを求める女を喰った事があるからだった。
 「……そういう人間ばかりではないと思いたいですね」
 苦笑するクロスツェルに、知った事じゃねーな。と、両肩を持ち上げる。
 「ですが、村の方が……と思うのでしたら、何故街に来たのですか?」
 「俺が封印される前、人間の世界は此処まで大きな文化を持ってなかったんだよ。一応、王国とかも点在してたが……大体は村と集落だったな。状況が変わってるなら、情報の波及の仕方も変化してんじゃないかと思ったんだが。この様子じゃ無駄骨だ」
 人間は面白いくらい変わらない。
 だからこそ、喰い甲斐があるんだが。
 「なるほど。言われてみれば、貴方は女神アリアの救世紀に居たのですよね。神代の方とこうして話しているとは、不思議なものです」
 「寧ろ俺は、人間があれだけ大好きだった英雄を完全忘却してる薄情さに拍手を贈りたい気分だぞ。誰だったか、英雄の偉業は末代まで語り継がれるでしょう、とか吟ってたんだが。ものの見事に消えてるな」
 「……英雄?」
 「昔、魔王と呼ばれてたレゾネクトを文字通り命懸けで異空間に吹っ飛ばした……神々の守護を受ける勇者一行が
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