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黒魔術師松本沙耶香 毒婦篇
9部分:第九章
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れど私はですね」
「わからないのならわからないままでいいわ」
 沙耶香は話を打ち切ってきた。
「けれど。そろそろこちらは終わりにさせてもらうわ」
「終わりですか」
「ええ。私の勝利でね」
 そう言うと沙耶香の魔力の気配が増した。そうしてそれが何かを出してきた。
「今まで四つの薔薇を出してきましたが」
 男は糸の上で沙耶香のその気配を感じながら述べる。
「今度は何でしょうか」
「あと一つしかないと思うけれど」
 沙耶香の声は笑っていた。
「色から考えて」
「ふむ、それでは」
 男は沙耶香の今の言葉から何かを察したようであった。口元にうっすらと笑みを浮かべてみせる。
「それですか」
「ええ。ただ」
 しかし彼女はまだ手の内を全て見せてはいない。そうしたこともあえて見せてはいないのであった。
「どうするかはわからないわね、貴方にも」
「いえいえ、だからこそいいのです」
 男のゆとりのある態度は変わらない。ここでもだ。
「それだからこそ。それでは」
「仕掛けていいのね」
「どうぞ。何時でもいいですよ」
 今の言葉も彼に絶対の自信があるからこそであった。全てはそれが故である。沙耶香にもそれはわかるがここでもそれを口にすることはなかった。
「さあ。是非」
「焦らないの。焦ったら面白くはないわ」
 沙耶香の声が笑う。楽しげに。
「いいわね。それじゃあ」
「さて、どうするか」
 男は動かない。しかしその周りの糸が自然に動き出す。かろうじて見える程度の糸であるがそれが動いていた。そうして沙耶香ではなく周囲を切り裂かんとしていた。

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