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異界の王女と人狼の騎士
第五話
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「わかった……」
 俺はそう答えるしかなかった。結局、俺は何もできない。俺は目の前の少女の名前すら知ることもなく、この場を逃げなければならないのか。

 少女はカウントダウンを始める。
「3……2……1」
 刹那、空を切り裂く音がして視界を何かが横切ったと思うと、少女が吹き飛ばされていた。すぐ横を飛んで行ったと思うと、激しく壁に叩き付けられていた。
 微かに呻き声を上げ、吐血する。そして少女はずるずると床に倒れ込む。

「大丈夫か!! 」
 俺は叫びながら少女に駆け寄ろうとするが、遮るように足首に激痛が走った。見ると奴の触手の一本が俺の足にしっかりと巻き付いていた。触手は足に深く食い込み、血が滲んでくる。
 ズルズルと音がし、如月が触手の足を這わせてこちらに近づいていた。

「安心してよ、月人君。このガキはそう簡単には死なないよ。……じっくりと楽しませてもらう予定だから、そこで見ていて。君はその後で殺してあげるから」
 自らの体を地面へと下ろす。二本足で立ち、触手は体を中心に扇形に開いた形になる。
股間に生えたものは、くるくるとその回転速度を上げている。
 このまま同じことを繰り返させられるのか。
 少女は意識を取り戻し、なんとか体を起こす。絶体絶命の状態でありながら、恐怖などまるで見せず、高貴な瞳で奴を見つめ返している。
 そんな彼女を見て益々興奮の度合いを強める如月。

 やられる。きっとやられる。寧々の様に。
 少女は蹂躙され嬲りものにされ、そして殺されるんだ。
 俺はただ見ているだけ。寧々が殺された時もただ見ているだけだった。今度も同じだ。俺は何もできず、ただ無力さを感じるだけ……。
 力が欲しい。
 奴を倒せるだけの力が。
 彼女を護るだけの力が。
 いや、せめて彼女をここから逃がす力だけでもいい。せっかく俺を生き返らせてくれた少女を護りたい。
 俺は祈った。……祈ったところでこの絶望的な力の差を埋めることなどできないだろう。それでも祈ることしかできない空しさ。
 ああ、絶望というのはこういうことなのか。これまで生きてきて、何度も何度も後悔を繰り返してきたと思う。でも、後悔は次があるから後悔できるんだよ。なんであの時こうできなかったんだろうと思うのは、今があるから。そして未来が当たり前のように存在しているからだ。挽回のチャンスがあるから人は悔やむことができる。
 でも、次が無い今の俺の状況のことを絶望というんだろう。
 深い深い闇。
 はい上がることのできない闇。やり直しができない現実。

 頭の中で怒りと悲しみが螺旋状に捏ねくり回されている。その想いはうねりとなり波動となり、俺の体を突き抜けてそして体外へと抜けていく。残されるものは何もない。何もない希望。

 不意に感じる
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