暁 〜小説投稿サイト〜
黒魔術師松本沙耶香 毒婦篇
8部分:第八章
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第八章

「例えそれが御命を頂戴する方であっても」
「わかっているけれど聞いておくわ」
 沙耶香は自分の命を狙っていると告げてきた男に対して問うた。
「それは李妖鈴の命令なのかしら」
「さて、それはどうでしょうか」
 しかし男はその問いには答えようとはしない。
「私では。わかりかねますので」
「生きては答えないということね」
 それならば方法はある、沙耶香は言葉の外でそう男に言っていた。
「わかったわ。それじゃあ」
「どうやら。観念されたそうね」
「また随分と面白い解釈ね」
 男の言葉にあえて丁寧に笑ってみせる。
「生憎私は諦めの悪い女なのよ」
「というと。私と闘われるのですね」
「ええ、そのつもりよ」
 言いながら構えを取る。その両手に紅い薔薇の花を持っている。
「薔薇の花ですか」
「そうよ、私はこの花が大好きなのよ。女の子と同じ位ね」
「ほほう、女性がお好きですか」
 男は沙耶香のその言葉に笑ってみせる。
「それはまた。随分と楽しいご趣味で」
「女の肌の悦びは女だけが知っているもの」
 沙耶香の言い分はこうである。彼女は女の肌を心より楽しんできている。そのことを話しながらも薔薇を掲げる。掲げられたその紅い薔薇は沙耶香の手を離れ花びらに散った。散った花びら達が一枚また一枚と散り沙耶香の足元も池も全て紅く染め上げたのであった。
「紅い薔薇を。また何に使われるのですか?」
「さて、何かしら」
 うっすらと笑ってそれには答えない。答えずに笑っているだけである。
「ただの薔薇と思うのかしら」
「そうですねえ」
 男はくくくとくぐもった笑いを浮かべながら沙耶香に応える。
「まあ普通のものではないでしょうね」
「あら、用心深いのね」
「何、私は臆病な男でして」
 笑いながらも身構える。その時。
「むっ!?」
「用心深いといってもこれは予想していなかったようね」
 沙耶香の声が笑っていた。何と薔薇の花びら達が舞い上がり男に向けて襲い掛かって来たのである。
「むっ、これは」
「これが私の薔薇なのよ」
 沙耶香はあえて薔薇の陣の中から動こうとはしない。彼女が動かずとも紅い薔薇の花びら達が男に対して襲い掛かっていた。彼女はそれを見て笑うだけであった。
「この薔薇は動くものに反応する」
「動くものに。それじゃあ」
「ええ、それがこの紅い薔薇」
 こう男に対して告げた。
「動く相手に襲い掛かり。そして」
「そして?」
「毒で眠らせるものよ」
「成程、そうした薔薇ですか」
「そうよ。紅い毒の薔薇」
 笑いながらまた薔薇を出す。今度は黒い薔薇であった。
「そして。この薔薇は」
「黒薔薇ですか」
「そう、これはこう使うもの」
 言いながら男に対して投げる。数本の薔薇が弓矢の様
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ