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黒魔術師松本沙耶香 毒婦篇
8部分:第八章
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に男に対して投げられた。
「紅い薔薇は包み込むのに対してこれは突き刺すもの」
「つまりは。手裏剣ですか」
「そう考えてもらうといいわ。ただ」
「ただ?」
「ただの手裏剣とは思わないことね」
 男に対する言葉はこうであった。黒い薔薇はそのまま一直線に男に向かいその胸を突き刺そうとする。
「その薔薇にも毒があると」
「だとしたらどうかしら」
 またしてもあえて答えはしない。
「逃れるというの?」
「はい、その通りです」
 そこまで言うと姿を消す。そうして二色の薔薇だけ残して男はその場から姿を消したのであった。
「消えたのね。けれど」
 沙耶香は周囲の気配を探る。男がそのまま消えたとは思ってはいない。
「まだここにいるわね」
「おやおや、用心深い方で」
 また男の声が聞こえてきた。
「私がまだここにおられると」
「わかるわ。気配でね」
 沙耶香は男の声に対してこう言葉を返す。言葉を返しながらも黒薔薇を手に持ったままである。その先は鋭く尖りまるで剣の様である。
「殺気、いえ妖気に満ちているから」
「それが貴女に対して向けられているというわけですか」
「そうよ、ドス黒いまでのものがね」
 言いながらも動かない。あくまで紅薔薇の陣の中にいる。さながら巨大な薔薇の大輪の中に立っているようである。
「感じるわ。私を殺したくて仕方がないと。いえこれは」
「これは?」
「そうね、貴方のものではないわ」
 その妖気を感じ取りながらの言葉であった。
「これは。むしろ」
「それ以上のお言葉は不要ですよ」
 その言葉と共に何かが来た。それは白い数条の糸であった。
「糸、ね」
「そうです。私の愛する糸達です」
「愛する?」
「はい、こうして」
 糸が迫る。するとそれだけで沙耶香の持っていた黒薔薇を切り裂くのであった。
「薔薇を!?」
「薔薇だけではありませんよ」
 男のくぐもった、それでいて楽しそうな声がまた聞こえてきた。
「この糸は何でも切り裂きます。そう、あらゆるものを」
「成程ね、それが貴方の武器なのね」
「武器などではありません」
 武器ということは否定してきた。
「あくまで私の身体の一部なのですよ」
「身体のね」
「それは誤解なきよう」
 あえてそこを強調してきた。
「わかったわ。それでその身体で私を切り裂くというのね」
「貴女はお美しい」
「お世辞はいいわ」
 それを拒んだのは謙遜ではなかった。
「本当のことを言われても嬉しくはないわ」
「その自信ですらも美しい。しかしだからこそ」
「切り裂きがいがあるというのね」
「そうです。だからこそ」
 男の声に残忍な笑みが宿った。そうして風と共に糸が迫る。そのまま沙耶香を切り裂くかと思われた。だがそれはならなかった。
「今
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