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黒魔術師松本沙耶香 毒婦篇
5部分:第五章
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えて述べた。
「どうして。主にあそこまで惚れておるのか」
「女を見る目があるのよ」
 沙耶香のまた随分と自分に都合のいい言葉であった。だがよく似合ってもいる言葉であった。松本沙耶香というこの女にとってはである。
「だからなのよ」
「ふむ。しかし主は応えぬのじゃな」
「気が向けばね」
 ミステリアスと言うべきであろうか。そうした笑いであった。その笑いで老婆に言葉を述べるのであった。
「応えるつもりよ」
「では無理じゃな」
 老婆の返事もまた素っ気無く聞こえるものであった。
「そんなようじゃと。主は女の方が好きだしな」
「彼の魅力もわかるわ」
 沙耶香とて男がわからないわけではない。彼女から見ても速水という男は花も実もある男である。しかしそれでも応えないというのだ。
「それでもね」
「駄目なのか」
「こういうのは全て気が向くかどうかなのよ」
 老婆に告げる言葉はこうであった。
「結局はね」
「味気ないのう、何処までも」
「そうかしら。それはまあ」
 何でもないといった様子の沙耶香であった。
「本当に今はね。気が向かないから」
「気が向くのは女子ばかりか。それは変わらぬのう」
「変わらないなりに楽しんでいるわ」
 また妖しい笑みになっての言葉であった。
「今もね」
「それでじゃ。今度もこれまで通りのやり方じゃな」
「そうね。相手のことは何かわかっているかしら」
「一応写真はある」
 そう言って沙耶香にその写真を投げてきた。宙で弧を描いたその写真を右手の人差し指と中指で挟んで受け取る。それから写真を見るのであった。

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