居場所は変わりなく
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幾分、幼子を安全な街に送るように指示してから、雪蓮は泣き腫らした瞼で友の隣に居た。
「……呂布の……いや、陳宮の取る戦略は大詰めだ。此処から南西の街道に従って本城を目指すだろう。ばらけた兵士集団は続々と集まり出す。祭殿は東南、思春は東北に向かっているそうだ。我らは――――」
「決まってるじゃない」
遮られる話。俯いた顔から聴こえるのは声だけ。桃色の髪のせいで表情は見えなかった。
「……何が、決まってる?」
「もうね、私は我慢出来ない、出来そうにない。皆殺しにしても満足出来なかった。あんな奴等じゃ腹の足しにもならない」
「……」
つーっと、彼女の唇から赤い雫が垂れる。
目を細めた冥琳は、同じように唇を噛みしめた。雪蓮がどれだけ、この地を好きか知っているから。抑えがたい激情の渦を、どれだけ抑えて来たか知っているから。
「愛しい愛しい、私の大切を汚してくれた落とし前……つけさせてやろうじゃない」
上げた顔、その蒼い水晶の瞳に炎が燃えていた。
怒りか、憎しみか、昏い色を宿したモノにしては……少しばかり透き通っていた。
何の為に戦っているのか、その想いを再確認した雪蓮は敵を間違えることはない。
「やめろと言っても行くんだろう?」
苦笑と共に冥琳がため息を一つ。世話の掛かる親友だ、それでも彼女の事は自分が一番良く知っている。
「うん、ごめんね冥琳」
「じゃあこれだけは言っておくわ」
慣れた手つきで髪を一掻き、雪蓮の前髪をかき分けて……冥琳は彼女のおでこに口づけを一つ。
「あなたを信じてる。おかえり言わせて、絶対よ?」
心配も不安もあるはずなのに、そうして送り出してくれる友がどれだけ有り難いことか。
いつもいつもこの人には敵わないと、雪蓮はそう思う。
照れくさそうに舌を一つ出して、雪蓮は笑った。
「はーい♪ 愛してるわ、冥琳っ」
二人のやり取りはそれだけで良かった。
自分達の想いを胸に秘めて、双頭の虎が己が戦場に脚を進め始めた。
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