居場所は変わりなく
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……“だった”。
彼女は誰にも話さない。結果がどうであれ、もはや欲しいモノは手に入れたのだから、と。
二人だけ残った白蓮と朱里。どちらとも無く目があった。
「……何処に行ってたか、なんて私は聞かないぞ?」
「ありがとうございます」
「秋斗なら朱里の策を言い当てるんだろうけど私には出来ないし」
「……あの人なら……私よりも上手く終わらせますよ。きっと」
自嘲の笑いは渇いていた。ぎゅうと抑えた胸が痛みを訴える。
嫉妬もある。羨望もある。彼のことを考えただけで甘い感情が沸々と湧いてくる。
「あいつはなんでも出来るわけじゃない、朱里の方が頭もいいのに……って言っても無駄か」
「……秋斗さんは、私達軍師にとって天敵ですから」
天敵、と聞いた白蓮の表情が曇った。
「最近さ、良く聞くんだ。徐公明は“天の御使い”じゃないかって話」
「……」
「乱世を終わらせる為に遣わされた天の意思。人々の祈りと願いを叶える為に戦う天よりの使者」
「……」
「苦難の人生に光を指し示す人々の希望、本当はただのんびりと暮らしていたい普通の男なんてこと、あいつをそう呼ぶ人達は知らない」
朱里は答えない。確かに民の間でもよく噂になっている。
人気の高い将で、他勢力にまで噂が広まっていて、英雄としての名が広まり過ぎている。
ただし、最近その質ががらりと変わってしまったが……。
――あの人は……有利だったはずのモノをそっくりそのまま引っくり返した。自分と覇王の描く世界を作り上げる為に。
「……ただ、敵には容赦しない。悪であれば神聖なる真名さえ捧げさせ、儒の教えに反しようと親兄弟を殺させる。
天の御使いってのは……人を恐怖と諦観に塗れさせるにも使えるなんて……皮肉にも程がある」
「天に勝とう、そう考えることこそ私達の主観と概念を打ち滅ぼす猛毒です。あの人と覇王ならこのくらいの手は打ってきます。これでもまだ序の序、始まりに過ぎません」
矛盾の押しつけは彼の十八番だ。
誰であれ、矛盾に気付かれてしまえば責められる。華琳でも、桃香でも、秋斗でも、白蓮でもそれは変わらない。
他勢力で広がりつつあるその噂は、桃香の行っている方策に対して何よりの邪魔。彼が他勢力に居るという事態こそが、朱里や白蓮にとっては最悪と言っていい。
「まあ、今はいいか」
「はい。あの人の話は、今はまだ」
遠くの空を眺めた。遥か北の大地を見る白蓮と、彼が居るであろう街の方を見る朱里。
どちらもの目には寂寥の色が浮かび、まるで何かを待っているかのよう。
蓮華達から軍議の合図が来るまで、二人はじっと空を見つめていた。
まだ夜は遠く、日輪が燦々と輝いていた頃のこと。
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