責任を放棄した男
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て、女の子の衣服を引き裂く寸前だった男の横顔を派手に蹴り飛ばした。
岩石のような巨体が、勢いに乗って地面すれすれを滑空。
建物一戸分は離れた場所で、整然と積まれていた木箱に激突し。
箱の中に詰まっていたガラス瓶ごと粉砕する。
白い泡を噴き上げた黄金色の液体が、男の周辺に勢いよく溢れ出した。
あれは麦酒、だろうか?
原材料を育んだ農家と加工した職人達の愛情詰まる飲み物だというのに。
勿体ないことをする。
「損害が出るような行動はできるだけ慎んでください、ベゼドラ。補償金に回せるほどの持ち合わせはないのですよ」
「何を寝惚けたこと言ってんだお前は。弁償してやる必要なんぞないだろ。いつまでボサッとしてんだ、小娘。とっとと失せろ」
汚い物を触ったとでも言いたげに足先をぶんぶんと振り回し、服に付いた何かを手で払った彼が、驚きのあまり固まっていた女の子を睨みつける。
ベゼドラの紅くて鋭い眼光に威圧されたらしい彼女は、弾かれたように、悲鳴を上げながら逃げ出した。
「あ、荷物……」
男に踏み砕かれたリンゴも、パンや葉物野菜も、すべて放置したままで。
「放っとけ。必要があれば取りに戻る」
「ですが、あの男性がここに居ては、また襲われてしまうのでは」
「ああ――っ……たく! マジでぅるっせえな、お前! こういうのは全部喰っときゃ良いんだよ、喰っときゃ!」
「! ベゼドラ、ちょっ」
ちょっと待ちなさいと、自分が引き止める間もなく。
気絶していた男に大股で歩み寄り、その首に牙を立てるベゼドラ。
数秒後、男は白い灰になって麦酒と混ざり、薄汚れた金色の泥と化す。
「まっずい! 炎天下に一ヶ月以上放置した牛の乳の味がする」
「……飲んだことがあるのですか? それ」
「あるわけねぇだろ。喩えだ喩え。比喩も知らんのか」
「比喩とは、ある物事を分かりやすく認識する為に、それとよく似た物事で代理表現する物で、この場合は味を知っていなければ喩えようがないと思」
「お前、マジでウザい」
「あ」
苦虫を噛み潰したような顔で、ベゼドラはさっさと表通りへ足を運んだ。
自分も、泥となった男に一礼を残して、真っ黒な背中を追いかける。
ロザリアが姿を消した。
夜明け前の礼拝堂には、自分と見知らぬ男が並んで横たわっていて。
目を覚ました自分は、やけに古い時代を感じさせる衣服を纏うその男が、自分の頭の中に語りかけていた悪魔ベゼドラだと理解していた。
意識が途絶えてからのすべてを、事細かに覚えているわけではないが。
自分がベゼドラと契約したことや、ロザリアにしてしまったこと。
ロザリアが本物の女神アリアだった事実は、鮮明に記憶していた。
ベゼドラ|曰
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