暁 〜小説投稿サイト〜
その魂に祝福を
無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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 緊張の糸が緩むと同時に疑問が思い浮かんだ。興味と恐怖の天秤は前者に傾き、言葉となってから、改めて不安を呼び寄せた。それでも、それを必死になって隠そうとしていたのだから、アタシの意地っ張りも大概だと思う。
「ここ最近、何か変わった事はないか?」
 それは奇妙な問いかけだった。そして、不安を煽るものでもあった。それでも強がって、何でもないように言いかえす。
「それは何? 脅迫のつもり?」
 返事を待たずに、言葉を重ねた。必要なのは勢いだ。黙ってしまえば、そのまま何かに飲み込まれかねない。そんな気がした。
「それならお生憎様。精々アンタの妹が目の敵にしてくるくらいよ」
「ああ……。 あの娘は思い込んだら一直線と言うか、大概意地っ張りだからな」
 一応宥めようと努力はしたんだ――アタシの皮肉に、その先輩は頭痛でも堪えるような口調で呻いた。……まぁ、喧嘩両成敗とはいえ、客観的に見れば悪いのはアタシの方だろう。それが分からない程には馬鹿ではないつもりだけれど、かと言って受け入れられる程には大人でもないらしかった。
「まぁ、それならいいんだが……」
 小さなため息を一つ吐いてから、その先輩は何処までも唐突にこんな事を言い出した。
「今日、一緒に帰らないか?」
「光お兄ちゃんの裏切り者〜〜〜〜!」
 直後、その先輩の横腹に彼の妹の跳び蹴りが炸裂した。




「今日、一緒に帰らないか?」
 そんな言葉を口にする――と言うより、口にしたばかりになのはの跳び蹴りをくらう羽目になったのは、ちょっとした懸念を抱いたからだった。俺の杞憂で終わればそれでいいが、見逃して本当に何かあればどうにも後味が悪い。ともあれ、その懸念が生じたのは昨日の放課後の事だった。
「ん?」
 なのはが新しく出来た友人の家に遊びに行くと言う事で、その日は一人で帰路についていた。せっかくの自由だ。本屋でも冷やかして帰ろうかといつもの道から外れて歩いていると、路地の陰に白い制服が見えた。それは俺自身も着ているものだ。それはいい。問題はその周りにいる輩だった。
(まさかしつこく意趣返しにきたのか?)
 近所の高校生達――というより、その肩書を持ったゴロツキどもだった。しかも小学生相手に恐喝をするような小悪党だ。名前は知らないが、残念ながら面識がある。以前絡まれて返り討ちにして……性懲りもなく現れては、なのはに手を出そうとしたためついうっかり本気の殺気を浴びせてしまった連中である。
(失禁する程怯えていたから、もう懲りたと思ったんだがな)
 それも忘れているなら、ある意味尊敬する。記憶の全てを取り戻した訳ではないが、こちらは四桁もの年数を命のやり取りに費やしてきた身だ。こう言っては何だが、キャンキャン吠えている小さな座敷犬と野生の飢えた狼が対峙するようなものである。
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