無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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れば異国人の知り合いがいない方がむしろ不自然だった。
「はじめまして。高町光と申します」
「そんなに固くならなくていいよ。私はデビット。アリサ・バニングスの父親だ」
一礼すると、その男――デビットは快活に笑って言った。が、その何某という娘には心当たりがない。となると、妹の知り合いだろう。だが、そんな娘の話は聞いた事がない。
新しい友人……と考えるのも早計か。そう断じてしまうには、まず根本的な所で不可思議な事がある。
「それで、し……父さん。何で学校に?」
今日は特別何か行事がある訳ではない。少なくとも、学校側が用意した予定ではそのはずだ。となると、何か予定外の事があったのだろう。
「いやぁ、それがなのはとバニングスさんの娘が喧嘩したそうなんだ。それも取っ組み合いの」
結構な大立ち回りだったらしいぞ――と、呑気に笑う士郎を前に束の間言葉を失っていた。なのはが喧嘩をしたというのは珍しいが、かと言って驚くほどでもない。あの娘は良くいえば真面目で意思が強い、悪く言えば頑固で融通の効かない側面がある。今回はそんな側面が悪い方向に発揮されたのだろう。そんな事はこれから先も起こり得る事だ。俺もその程度の事で絶句した訳ではない。
「……バニングスさんとは旧知の仲なのか?」
漠然と返答を予想しながら……いや、確信さえしながら問いかける。
「いや、今日初めてお会いしたよ」
あっさりと士郎は言った。予想はしていた。その通りの答えだった。その上で、俺は頭を抱えたい衝動を必死で自制する必要に駆られていた。
(喧嘩した相手の親と何でそんな和気藹々としてるんだ?)
話を聞く限り、まだ親が出張らなければならなくなる段階ではなさそうだが……だからと言って仲良く肩を並べて歩いてくる事もないだろうに。
「実は私もサッカーが好きでね」
「それで意気投合したんだ」
ああ、そうか――ため息の代わりに呻く。一体他にどう返事をしろというのか。こういう人種ばかりだったなら、世の中はさぞかし平和だろう。そうでないのが心の底から悔やまれてならない。実に楽しそうに笑いあいながら校門へと向かっていく二人を見送ってから今度こそため息をついた。
「……早く帰って傷の手当てでもしてやるか」
抱えた空のゴミ箱が妙に重く感じる。その重みを誤魔化すような気分で呟いた。
取っ組み合いをしたと言うなら、擦り傷の一つ二つあるだろう。手当ての一つもしてやりながら、事の経緯でも訊いてみるとしよう。そしてその上で、必要な事は言い聞かせなければならない。
「俺が言うのも何だけどな」
まさかこの俺が暴力は良くないと説くだって?――皮肉たっぷりに自嘲する。新手の冗句にしても笑えない。肩をすくめて廊下を歩きだす。教室まで戻ってゴミ箱を鞄に持ち替えたなら、その笑えない冗句を言うために家
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