無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
[18/22]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
は少年に手を引かれ、アタシはまた走り出していた。その後を追うように銃声が響く。鉄骨の剥き出しになった柱や錆ついた防火扉に弾がぶつかって火花を散らす。
「まさか銃で武装してるとはな。この国の安全神話とやらは何処に消えたんだ?」
そんな中をどれくらい走っただろうか。銃声が聞こえなくなってからしばらくして、アタシ達は倉庫のような所に身を潜めていた。一度止まってしまうともう走れそうにない。身体が疲れているというより心が悲鳴を上げていた。何もかも投げ出してしまいたい衝動を必死で抑え込む。何も手につかないとはきっとこんな事を言うのだろう。
「どうして、こんなことに……?」
信じていたのに。胸中で呟くと、涙が溢れてきた。溢れ、止まらなくなった。思わず傍らの少年に縋りついていた。誰かのぬくもりが恋しかった。
「すまない。君が寝ている間に始末をつけるべきだった」
慰めるでも励ますでもないその言葉は、それでも真摯だった。その少年にできる精一杯がそれだったのだろう。その真摯さは残酷でもあったけれど……それでも、今は心地よかった。今は誰かを信じたかった。信じていたかった。少年はそれ以上は何も言わず、ただ黙ってアタシの背中を撫でてくれた。それから、どれくらい経っただろうか。
「ひっ――!」
足音が聞こえた。誰かがこっちに近づいてくる。少年が身体を緊張させるのが分かった。そして、囁くように彼は言った。
「ここで大人しくしていろ。目を瞑ってじっとしているんだ」
言うと、少年は音もなく立ち上がった。止めるべきだったのかもしれない。けれど、恐怖で声が出なかった。
「あの小娘をどこにやった?」
怨念の籠った声というのは、きっとこんな感じなのだろう。聞き慣れた声のはずなのに、全くの別人のように感じられた。
「そんな口を聞いていいのか。相手は社長令嬢だろう?」
「いまさら関係あるか。この糞ガキ、この日のために今まで散々我儘を聞いてきたというのに、お前のせいで台無しだ」
今さらながらにそれは鋭くアタシの心に突き刺さった。今まで黙って我儘を聞いてくれていたのは、結局そんな理由なのだろうか。
「それで自棄になったのか?」
「そうだ。こうなればお前ら皆殺しだ」
「やれやれ。玩具片手に粋がるなよ」
「玩具じゃない!」
再び銃声が響く。固い何かが砕ける音と共に、花火のような匂いを感じた。
「ふっふっふ……。子どもらしく悲鳴でも上げて見たらいかがですか」
「さて。どうするかな」
「いちいち癪に障るガキだな!」
また銃声。それは勇気というより恐怖が限界を超えただけだったと思う。立ち上がり、飛び出していた。
「お願い小父さま! もうやめて!」
「出てくるな!」
鋭い叫び。それは少年の声だった。余裕のない声に身体がすくむ中、小父さまが銃をこちら
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ