無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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どとっくに知っていると言わんばかりに告げた。
「そう。例えば何の脈絡もなく姿を現した社長令嬢の付き人とかな」
果たして。コップから先に水を溢れさせたのはこの少年だろうか。
「高男小父さま……?」
それとも、小父さまだったのだろうか。
「いやぁ、参りましたね。頭がいい子だとはアリサから聞いていましたが」
それは肯定の言葉だった。それくらいの事は分かった。分かったけれど――
「ウソよね……? 何で?」
「無論社長が退任すれば、私が次の社長になれるからですよ。そのためのアルバイトを雇ったのですが、どうやら上手くいかなかったようですね」
いつも通りの柔和な笑顔で小父さまがが言った。
「なるほど。身代金の代わりに退任を要求するつもりだったのか。ま、いずれにしても賭け事の才能はなさそうだな。ちょっと突かれたくらいで手札をばらすようじゃあな」
「これは手厳しい。ですが、君も話に聞く程頭が良い訳ではないようですな」
小父さまがゆっくりと近づいてくる。今はそれが無性に怖かった。
「一つ。子どもの言う事なんて誰も信じない」
小父さまが背広の内ポケットに手を入れた。黒い手のひら大の何かを取りだす。
「二つ。死人に口なしと言いますよ? 何、元々娘が惨死した傷心のあまり退任、というのが私のシナリオですから」
それは拳銃だった。玩具ではないと直感で分かった。
「……ま、子どもの言う事なんて誰も信じないというのは同感だ」
両手を上げながら、それでもその少年は薄く笑っていた。
「だがまぁ、便利な時代になったと言うことか」
何の脈絡もなく少年はそんな事を言った。疑問に思ったのはアタシだけではなかったらしい。小父さまも怪訝そうな顔をした。
「魔法なんぞ使わなくても、この場の声を遠くに伝える事ができるってことさ」
ゆっくりと少年が懐に手を入れ何かを取りだす。それは携帯電話だった。
「聞こえたな。士郎?」
「……久保君。残念だ」
帰ってきたのはパパの声だった。携帯をトランシーバーモードにしてあったらしい。子どもの言う事は信じてもらえなくても、本人の言葉なら信じるよりない。ただそれだけの事だった。
「――――」
「――――」
パパの声を最後に、束の間沈黙が落ちた。
「クククッ」
それを破ったのは少年の笑い声だった。
「フフフッ」
小父さまの笑い声がそれに重なる。
「ハハハハハハハハハハハッ!」
「アハハハハハハハハハハッ!」
二人の笑い声が廃墟に響き渡る。そして――
「何が可笑しい!?」
ドン!――と、お腹に響く音がした。いや、それは音と言うより衝撃だった。本物の銃声。けれど、不自然なくらい幸運なことに近くの廃材が突然崩れてきた。それが銃弾を防いでくれたらしい。本当に幸運だったけれど――その頃に
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