無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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としたアタシを、しかしその少年は片手で制した。
「高男さん、でいいのかな。貴方は何故こんなところに?」
それはまるで獲物を前に静かに牙を剥く獣のような声だった。凄んでいる訳でもない。声を荒げる事もない。とても静かで隙のない声だ。
「それはもちろんアリサさんを助けに来たのですよ」
「助けに来た。と言う事は、この娘が誘拐されたと知っていたと。一体どこで?」
「それは無論、社長――アリサさんのお父さんからです」
「それは妙だな。彼はまだ知らないはずだ。それに、警察より先に貴方に連絡したというのも不自然だと思わないか?」
「……何が言いたいのかな?」
小父さまの声が変わったのを覚えている。どこがどうという訳でもないけれど、落ち着いて、どこかのんびりとした声ではなくなった。
「何。別に難しい事じゃあない。ただ不自然なのさ。分からないか?」
その少年は笑ったらしかった。輝きのない鋭い目を笑みと呼ぶのなら。
「アンタがこの場所を知っている事自体が不自然だと言いたいんだ」
小父さまの顔が凍りつくのが分かった。
「……それを言うなら、君だってそうではないですか?」
「生憎とこの娘をさらったゴロツキどもとは縁があってね。根城については調べてあったんだ。ま、変に知恵を働かせていなくて助かったのは事実だがな」
露骨に肩をすくめてから、その少年は言った。
「そう言えば、あのゴロツキどもは妙な事を言っていたな。そう……儲け話がどうとか」
「誘拐なら身代金を請求するつもりだったのでしょう。それがどうかしましたかな?」
「まぁ、そんなところだろう。それはいいさ。誰でも考え付くことだ」
水をいっぱいに入れたコップに、交互にコインを沈めていく。いつか映画でそんなゲームを見た事がある。二人のやり取りは何故だかそれを思い出させた。
「では何が問題なんでしょうな?」
「問題だらけだよ。例えば、連中はどこでアリサの事を知ったんだと思う?」
「アリサさんは目立つからでしょう。この国で外人は目立ちますからな」
「そうかも知れないな。だが、連中はこの娘とウチの妹が喧嘩したことまで知っていた」
それは確かに変だった。学校内では噂になっているのは知っていたけれど、だからと言って他所の高校生にまで話が広がるとは考えづらい。とはいえ――
「ああいった連中に憧れる子もいるでしょう」
絶対にあり得ないとも言えない。ましてやアタシは目の敵にされているのだから。
「それは否定しない。だが、この娘のクラスメイトにいるかどうかは話が別さ。少し調べてもらったが、この娘を目の敵にしている連中も全員シロだったよ」
それなら、一体どこで?――当然の疑問が浮かぶ中、小父さまは黙ったままだった。
「連中に入れ知恵をしたのは別の輩だ」
一方の少年は、まるで正解な
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