暁 〜小説投稿サイト〜
その魂に祝福を
無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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ど酷く埃っぽい。天井は塗装が剥がれ落ち不気味なまだら模様になっていた。近くには錆びた手すり。どうやら一階から吹き抜けになっているらしい。それなりの広さがある様子だった。
「見てのとおり、街外れの廃工場だ。誘拐犯が逃げ込む先としては捻りがなさ過ぎるな」
 おかげで助かった――気楽な様子で肩をすくめて見せるから、束の間反応が遅れた。この少年は今何と言った?
「誘拐!?」
 そう言えば学校が終わってからのことを良く覚えていない。確かこの少年のいつもの誘いを断って一人で帰って、それから……それからどうなった?
「無理に思い出すことはない。忘れてしまえ」
 その言葉に不思議と従っていた。きっと、思い出しても良いことはないと分かっていたのだろう。今さらになって吐き気がしてきた。
「さて。連中が正気に戻る前に逃げるぞ」
 そう言えば何か騒がしい。何となく連想したのはバーゲンセール時の騒乱だった。もしくはクラスの男子が騒いでいる時か。でも、実際はそのどちらよりももっと暴力的な気配だった。
「な、何アイツら。何でゴミを奪い合ってるの?」
 一階部分を覗き込むと、数人の不良が紙くずや壊れたマネキンのようなものを奪い合い、殴り合っていた。遠目にも全員の目が血走っているのが分かった。
「さぁな。変な収集癖でもあるんだろう。それより、連中とは知り合いか?」
「そんな訳ないでしょ!」
 反射的に怒鳴ってから、慌てて両手で口を塞いだ。あまり大声を出すとあの連中がこっちに向かってくるかもしれない。冷や汗が背中を伝った。
「そうか……。なら、いいんだ」
 一方の少年は、安心したような――それでいて、何か後悔するような不思議な表情を一瞬だけ浮かべた。それが何なのか、どんな感情によるものだったのか。この時はまるで分からなかったけれど。
「長居は無用だ。早く帰ろう」
 次の瞬間にはその表情は消え、いつも通りの少年の姿がそこにあった。アタシは両手で口をふさいだまま無言で頷いていた。風邪でも引いたようにぞわぞわする。ようやくはっきりし始めた頭が、今さらになって恐怖を伝えてきていた。
「こっちだ」
 少年に手を引かれ、廃墟の中を走り出す。膝がガクガクするが、幸いまだ走れない程ではない。まだ頭の芯の部分がボーッとしているからかも知れないし、その少年が手を引いてくれているからかも知れない。
 そこからどう走ったのか。廃材が適当に立てかけられた細い道を私達は走っていた。具体的な場所は分からないにしても、少なくとも建物の外に出られた事は、少しだけアタシを安心させた。これで帰れる。そう思っていた。
「アリサ! 無事で良かった!」
「高男小父さま!?」
 小父さまが姿を見せたのは、ちょうどそんな時だった。彼の姿はアタシを安堵させるには充分だった。感極まって彼に駆け寄ろう
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