第二話 たかが一杯。されど一杯。
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最初は慌てていた二人も、だんだんと緊張感が薄れ、ココアに至ってはもはや競技か何かの様に声援を飛ばしている。
私は、悔しいやら恥ずかしいやらで、薄く涙が目にたまり、顔は真っ赤になっていた。
と、それを見かねたのか、彼は、
雄二「これくらいでいいだろ?」
ガキン!
一同『な!?』
私のナイフは、火花を散らし、空中で静止した。
というか、止められた。
誰に、というのはこの状況では攻撃を受けていた本人、風見雄二に他ならない。
だが、あの状況からどうやってそれを止めたか、その方法自体が異常だった。
ギ、ギギギ!
私は何とか突き込んだナイフを手元に引き戻そうと、力を込める。
だが、ナイフは食器との擦れが生む軋んだ音を出すだけで、ピクリともその場から動かない。
そう、食器。今現在、ナイフの運動力とのつり合いを生み出しているのは、いつもこの喫茶店で見慣れた何の変哲もないコーヒーカップだ。
確かに、チノは丈夫で良いコーヒーカップを使っていると言っていたが、流石に本気で突き込まれたナイフの力を相殺するだけの耐久力はないはずだ。
だったら、何故私のナイフと止められたのか?
それは、ひとえに天才的戦闘技術がなせる業だ。
まず、私がナイフを突き込む、このとき、カップを掠めて軌道を逸らし、勢い余った私を取り押さえる、というのならばわかる。
だが、彼がやったのは、その技術の数段上だ。
受け止めたのだ、何のもないコーヒーカップ、その―――取っ手の輪の部分で。
突き込んだナイフを逸らすのではなく、輪っかに通し、奥まで完全に突き込んだところで手首を返し、てこの原理を応用し、完全に衝撃を抑え込み、いかなる力も受け付けない状態に持ち込んだ。
まさに、針の穴に糸を通すかのような繊細かつ、大胆な手口だ。
位置を少しでも間違えば、ナイフはガードを素通りし、彼を直撃し、輪に入ったとしても、一点が力を一気に引き受けては、カップが破損してしまう。
更に、ベストポジションに収まったとしても、手首の返しのタイミングを少しでも間違えば、これもまた簡単にガードを突破される。
こんな戦術、思いついたとしても、私なら絶対に実行しない。というか、絶対に試したくもない。
そして、私が固まった隙を見計らい、カップを止める為に回した縦軸ではなく、横軸へと捻り、そのまま、
ゴクゴク、カラーン
中身のコーヒーを飲み干す動作と連動して、私の手からナイフが取りこぼれる。
雄二「少し、取っ手に傷がついてしまったな。なるべく壊さないようにしたのだが。これでは壊れていなくとも、店で使うことは出来んな。…リゼ、からかったのは悪かったが、少しやり過ぎだ。お互いにな」
リゼ「へ?あ、ああすまない?」
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