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黒魔術師松本沙耶香 毒婦篇
23部分:第二十三章
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 沙耶香は牡丹と妖鈴を交互に見ながら答えた。
「ただ一つわかることは」
「何かしら」
「その牡丹が私の紅薔薇を打ち破ることができるものであるというだけ。それだけよ」
 そこまで言うと右手の親指と人差し指を鳴らした。するとそれで薔薇達は降り庭を紅にした。そうして牡丹だけにしたのであった。
「この薔薇は穏やかだけれど確実に浸透していく毒」
「そうだったわね」
 妖鈴はもうそれを知っている。沙耶香はそれをまた確かめたのだ。
「それは知っているわ」
「ではその白牡丹は」
「察しがついたようね」
「毒を消すにはより強い毒を」
「そうよ」
 沙耶香に言う言葉はそれであった。
「この白牡丹は即効性の。しかも猛毒よ」
「そう、やはりそうだったのね」
「紅薔薇の穏やかな毒は打ち消してしまうわ。当然蒼薔薇のそれもね」
「もうそれもわかっているのね」
「ええ。さあどうするのかしら」
 その言葉の間にも牡丹は沙耶香に迫っている。早急に手を打たなければならない状況なのは言うまでもない。沙耶香はここではまずは黄薔薇を出した。それで己の周りを覆った。
「まずは護りね」
「念の為にね。けれどこれだけではないわ」
 その通りだった。これで終わらせるつもりはなかった。沙耶香はさらに黒薔薇を出した。妖鈴はそれを見て彼女が何をするのかを察した。
「そう。それでなのね」
「同じ性質のものは打ち消し合うものだ」
 沙耶香は言う。
「そうだったわね。だからこそ」
「その通りだけれど上手くいくかしら」
「この薔薇の毒を甘くみないことね。それに」
「それに?」
 沙耶香に対して問い返す。
「黒は白に勝つものよ」
 根拠はないように見えてそれでいて非常に説得力のある言葉であった。
「必ずね。それを忘れないことね」
「その逆ではなかったかしら」
「今はそうよ」
 あえてこう言ってみせる。
「最悪打ち消すわ。これでね」
 そこまで言って黒薔薇を投げた。それは手首のスナップだけを利かせた軽いスローイングであったがそれでも的確かつ素早く白牡丹に進む。そうして黒と白が打ち合った。
「むっ」
「上手くいったわね」
 二人は打ち合う二つの花を見てそれぞれ声をあげる。妖鈴は表情を変えずに沙耶香は口元だけで微笑んで。黒薔薇と白牡丹は打ち合いそれで互いにその花を散らしたのであった。
「私の予想通りだったわ」
「それぞれの毒は互角だったようね」
「そうね。私はこれで三つの薔薇を使ったけれど」
 そう言いながら今度は蒼薔薇を出すのであった。四つめの薔薇であった。

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