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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
23.君の希望を僕にくれ
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、その一つ一つに心を揺さぶる不思議な響きがあった。
 何もかもを失って、生きる意味さえ失いかけていた心に小さな光が灯っていく。

「ティズ。あなた、命を賭してまでやりたいことはある?どんな困難が待ち受けていてもやり遂げたい願いはある?」

 僕の願い。
 僕のやりたいこと。
 頭の中を反芻する言葉が、ティズの心に一つの光景を思い出させた。

 どんなに伸ばしても届くことが無かった、弟の手。
 失意、喪失、胸を貫き脳髄を揺さぶるかつてない悲嘆。
 自分も死ねばよかったと考えたティズは、同時にこうも考えていた。

 こんな理不尽な悲しみは、この世にあってはならない。

「エアリー……この大穴を塞がない限り、悲劇は続くの?」
「続くのではないわ。これはほんの序曲……いずれ、もっとひどいことになる」
「きみは、それを止める方法を知ってるんだね?」
「エアリーはいつだって清廉潔白(せいれんけっぱく)よ!嘘なんかつかないわ!」

 なら、決まりだ。ティズは静かに心でそう呟いた。
 こんな悲劇を繰り返したくない。他の誰かに、同じような苦しみを味わって欲しくない。
 そのために出来る事が、目の前にあるんだ。

「僕は……故郷も家族も、全てを失った。胸が苦しくて……今でも心の奥では泣き止まない僕がいる。だから、思うんだ………こんな悲劇はここで終わらせなきゃならない」
「……強い覚悟をした目ね、ティズ。何を覚悟したか、エアリーに聞かせてほしいな?」

 もう、ティズの心には迷いも躊躇いもない。
 残った命の全てを奉げてでも、やるべきことが出来た。

(ティル……みんな……もしも天国にいるのなら、そこから僕を見守っていてくれ)

 分不相応な望みかも知れない。僕なんかにやれるのか、という不安も拭えない。
 しかし、嘆くだけの時間は終わった。今は未来にほんの小さな希望が瞬いている。
 今にも消えてしまいそうなほど小さくて脆い光だけど、それでも自分の命に生き残った意味があるのならば、何度でも立ち上がり運命と向かい合ってやる。

「僕は、あの大穴を塞いで悲劇を終わらせる。これ以上誰かにあんな思いをさせるもんか!そのためなら……エアリーとの契約だって魔物との戦いだって、何だってする!エアリー!――君の希望を僕にくれ!!」
「………契約成立ね!」

 その日、少年は世界を救う覚悟を決めた。



 = =



 ところで、そんな二人の様子を遠巻きに呆然と見ていた者が二人いた。
 言うまでもなく、ティズを全力で追いかけてきたアイズとアニエスの二人である。

 最初は魔物に襲われてでもいるんじゃないかと剣を構えたアイズだったが、不覚にも今は剣を下して呆然とエアリーを見つめていた。その理由はいた
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