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黒魔術師松本沙耶香 毒婦篇
22部分:第二十二章
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す」
 こう沙耶香に対して言う。
「ですが。それでいて邪悪なものではない」
「悪ではないというのね。私は」
「はい。ですが善でもない」
 そうでもないというのだ。では沙耶香とは一体何であるのか。
「貴女は貴女であると。そう感じます」
「善も悪もね」
 沙耶香は自分に対してこう言ってきた道士に対して思わせぶりな笑みを作った。そうしてその笑みでまた言うのであった。
「それに偏っては何も面白くはないわ。純粋なものはね」
「純粋なものはですか」
「退廃はいいのよ」
 それはいいと言う。夜を愛する沙耶香らしい言葉であった。
「それと美麗は。ただ善や悪といったものは」
「興味はありませんか」
「罪を犯すのは甘美なこと。けれど善と悪はまた違うものよ」
 またこう述べるのだった。やはりここでもそれとは離れたものを見せていた。
「言うなら私にとっては。あまり意味のないことよ」
「そうなのですか」
「善も悪も。この世の一面でしかないわ」
 沙耶香の考えはこうであった。
「むしろそれとは関係ない世界こそがいい。そうではなくて」
「私からはそれについて申し上げることはできませんが」
 道士もまた宗教家である。宗教家が善悪を否定してはやはり話にならない。だが沙耶香は違う。だからこそ言えるのであった。
「貴女がそう思われるのなら何も言いません」
「何も言わないのね」
「はい。勧めはしませんが」
 一応は釘を刺す。
「ですがそれ以上はしません」
「そうなの。御礼は」
「別にいいのですが」
「そういうわけにはいかないわ。お寺やこうした場所に入れば何か置いていくのは決まりよ」
 沙耶香は珍しく穏やかな笑みを浮かべて彼に述べた。
「だから。はい」
「これは・・・・・・宜しいのですね」
「私は気前がいいのよ」
 穏やかな笑みはまた妖しい笑みにすぐに戻っていた。その笑みで銀の大きな棒を二本出して道士に手渡すのであった。彼に直接。銀のズシリとした重みがその手に伝わる。

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