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黒魔術師松本沙耶香 毒婦篇
21部分:第二十一章
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おくわ」
「有り難うございます。けれど昨夜だけですね」
「また会えればいいのだけれどね」
 また美女の顔を覗き込んで笑う。
「それはわからないわね」
「そうですね。それだけは」
「だから。一旦はこれでお別れよ」
 こう美女に告げた。
「それでいいわね。縁があれば」
「そうですか」
「また。会いましょう」
 ここまで言って別れた。沙耶香にとっては楽しい夜だったがそれも終わった。そうしてその日はそのまま繁華街から消えた。港に出てそこを行き来する船を一人眺めていた。煙草を吸いながら眺めているとその後ろに複数の影が姿を現わしたのであった。
「そちらでも大きな収穫があったようね」
「ええ」
 影達は全て沙耶香であった。先に放った影達がここに集まってきたのだ。立ち並ぶ白い倉庫の前に彼等は何時の間にか姿を現わしていたのであった。
「それもかなりね」
「本人に会ったのね」
「そうよ、よくわかったわね」
 沙耶香は煙草を吸ったままであった。後ろにいる己の影達の方は振り向かない。船の汽笛を音楽して煙草を吸いながらそうして話を聞いているのであった。
「香りでね。わかったわ」
「香り。そんなに強く香っているかしら」
 沙耶香は影達のその言葉を聞いても特に表情を変えることはない。そのまま煙草を吸い続けている。視線は船と海、煙草の青い煙を見ているだけである。

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