第三章
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「真面目な人よ」
「そうだな、同じ職場のだな」
「同僚で同じ年齢でね」
ハンナの方から話していく。
「趣味はね」
「音楽鑑賞と読書です」
彼は自分から言った。
「それと犬の飼育です」
「犬か」
「はい」
「ギャンブルはしないか」
「そうしたものは嫌いでして」
「酒はどうだ」
「好きですが」
それでもとだ、彼はグレゴールに答えた。
「あまり深酒は」
「しない様にだな」
「しています」
「あとお金のことはね」
ハンナの言葉だ。
「しっかりしてるから」
「面白みのない人間です」
その当人の言葉だ。
「よく言われます」
「面白みがないか」
「はい、派手さがなく個性もないと」
「つまり平凡だとだな」
「いつも言われています」
彼はグレゴールに答えた。
「その様に」
「いいことだ」
だが、だった。グレゴールは。
穏やかな笑みになってだ、こう彼に言った。
「そんなことはいいのだ」
「そんなこととは」
「破天荒とかはいい」
「面白みがなくとも」
「何年か前に娘に言ったが」
ハンナを見つつの言葉だった、今度の言葉は。
「君はリリャルト=ワーグナーについてどう思う」
「音楽家の」
「そしてベートーベンやモーツァルト、シューベルトだ」
まずは作曲者達を挙げて次は。
「アルトゥーロ=トスカニーニやオットー=クレンペラーは」
「そうした人達の音楽ですか?」
「いや人格だ」
まさにハンナへの問いをそのままだ、彼にもしたのだった。
「彼等のな」
「ワーグナーは、本で読みましたが」
まずは彼からだ、フリッツは顔を顰めさせて答えた。
「音楽はともかく人間としましては」
「問題があるどころではないな」
「傍にいて欲しくないです」
フリッツは彼が思うワーグナーの人格をそのまま答えた。
「絶対に、ベートーベンはお付き合いするには」
「苦労するな」
「非常に。モーツァルトは悪気はなくとも」
それでもだというのだ、彼にしても。
「付き合いにくいですね、シューベルトも嫌いでなくとも苦労しそうです」
「誰もがな」
「トスカニーニは短気過ぎます」
練習中に指揮棒を折ったり投げたりだ、指揮者の席で暴れたりとそうした性格についてはとかく知られている。
「そしてクレンペラーは」
「彼はだな」
「最悪と言っていいです」
それがオットー=クレンペラーという人物だったというのだ。
「あまりにも女癖が悪いです」
「ワーグナー以上にな」
「今では刑事告訴されています」
セクハラどころではなかった、クレンペラーの所業は。
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