第十章
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「どうしようもありませんね」
「後で、です」
「その身体だけを」
「確保しましょう」
「まだ罪を清めたかったけれど」
シスターは今も燃えていた、紅蓮の炎が全身を焼きその中に身体の輪郭だけが見えている。そして顔だけがだ。
その顔がだ、見れば。
妖しい美しさとこれ以上はないまでの不気味さをたたえた凄惨な笑みになっていた。炎から出ているその顔だけが。
その笑みでだ、三人に言うのだった。
「これでこの世から去るわ」
「ああ、あんたの魂もな」
それ自体もとだ、本郷はその目に見えているものを語った。
「この世から離れようとしているな」
「そう、天に召されるわ」
「そうは見えてないけれどな」
本郷の目にはその魂は地の底に向かっていた、だがそれは相手に言ってもわかろうとしないのでそれでだった。
言わなかった、だがだった。
礼拝堂全体が炎に包まれていた、この状況に至ってだ。
三人はシスターを見つつもその場を後にした、そうして。
上から焼けた柱が落ちる中でだ、扉から飛び出た。シスターはそこでも妖しく不気味な凄惨のある笑みを浮かべていた。笑みは三人が扉を出るその瞬間にもあった。
本郷が扉を閉めた時にもだった、笑みがあった。笑みは閉じられていく扉の向こうの世界が炎に包まれる中でもあった、扉が閉められるのが先か炎にその向こうの世界が全て包まれるのが先か。どちらかはわからなかった。
しかしシスターは最後まで笑みだった、そして。
三人が礼拝堂を出てすぐに礼拝堂の外までが炎に包まれた、その燃える様子を見つつだった。
私服の警官達がだ、高篠に問うた。
「警視正、ご無事ですか」
「大丈夫ですか?」
「私は。ただ」
それでもというのだ。
「中にいる容疑者は」
「はい、これではですね」
「最早、ですね」
「礼拝堂の中で自分自身に火を点けてでした」
このこともだ、彼は話した。
「そしてです」
「そうですか」
「はい、ですから」
「死んでますよ」
本郷も高篠に言う。
「魂が完全にあっちの世界にいっています」
「冥府にですね」
「ええ、地の底に」
天国ではなくそちらだというのだ。
「行っています」
「わかりました」
「後はこの火は」
「私達でどうにかしますので」
本郷だけでなく役も高篠達に話した、そうした話をしつつだった。
本郷は式神の札を、役は青い水晶を出した。そうして言うのだった。
「水の式神を出しますので」
「水の術を使います」
それで、というのだ。
「この火のことは安心して下さい」
「何とでもなります」
「そうですか、では」
「はい、しかし」
「それでもですね」
「恐ろしい笑顔でした」
高篠はシスターのその顔を思い出してだ、ぞっとするものを
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