第九章
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「塗っているわ、そこに」
「まさか」
「そのまさかよ」
シスターは妖艶な、法衣が余計にそれを醸し出しているがそれでいて余計に不気味さも出している笑みでだった。
その手に持っているライターをその法衣に付けた、すると。
法衣は瞬く間に炎に包まれた、高篠はその炎の勢いを見て驚愕して言った。
「馬鹿な、火の回りが早過ぎる」
「あれは普通の火ではありません」
役はその高篠に冷静に答えた。
「彼女の情念が入ってしまっています」
「情念が、ですか」
「つまり気が」
それがだ、火に宿っているというのだ。
「その為です」
「火が、ですか」
「炎となり」
そして、というのだ。
「あの様にです」
「焼いているのですか」
「このままではです」
それこそ、というのだ。
「教会自体も」
「そういえば」
見ればシスターを包んでいる炎は礼拝堂の床にも届いていた、そうしてそのまま床から徐々にだった。
炎は礼拝堂を包もうとしていた、その勢いを見てだ。
その状況を見てだった、本郷も高篠に言った。
「ちょっとこれは」
「最早ですか」
「逮捕どころじゃないです」
言いながらだ、本郷は。
その手に札を出そうとする。だがその彼を役が制止した。
「水を出してもな」
「それでもですか」
「彼女は手遅れだ」
既に全身が炎に包まれている、それでというのだ。
「助からない、それにだ」
「向こうもですね」
「生きることを望んでいない」
「そうよ」
炎の中からだ、シスターも言って来た。
「私は俗世から離れるわ」
「それでかよ」
「このまま去らせてもらうわ」
「地獄に行くんだな」
「地獄?私はこの世の悪を清めたのよ」
風俗嬢達自身をというのだ。
「己の欲の為だけに身体を売る彼女達をね」
「そう思い込んでるんだな」
「思い込みではないわ」
それも否定するシスターだった。
「私のことは神が最もよくご存知よ」
「そう思うならいいさ」
本郷も今はこう言うしかない、それでだった。
役に対してだ、目を顰めさせたうえで告げた。
「やっぱりこれは」
「どうしようもないな」
「ええ、出ましょう」
是非にというのだ。
「ここはどうしようもないです」
「それではな」
「高篠さんもこれで」
「はい、これではです」
その高篠もだ、本郷の言葉に応えた。
「仕方ありません」
「ここを出ましょう」
「もうこの場所も」
礼拝堂全体がだった、炎が床を走りだ。三人のところに迫っていた、そうした状況であるばらばだった。
「危ういですから」
「出ましょう」
「彼女は最早」
高篠から見てもだった。
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