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黒魔術師松本沙耶香 毒婦篇
12部分:第十二章
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われ見えなくなるのだった。
「男とどちらがいいかしら」
「それはわかりません」
 瞬華の感想はこうであった。
「どちらがどちらかとは。けれど」
「この味は忘れられないわね」
「ええ。しかもあれですよね」
 ここで瞬華は自分から沙耶香に問うてきた。
「これは。浮気ではないのですよね」
「そうよ、違うわ」
 そう彼女に答える。
「だって。男と寝るのが浮気よね」
「はい」
 俗にそう言われている。人妻が夫以外の男と寝ればそれは浮気になる。だがその相手が女であったらどうなるか。これはいささか難しい問題である。同性愛そのものが許されない背徳の罪であるという者もいるが沙耶香はここではそれは言ってはいない。
「けれどそれが女ならば」
「そうはならないですか」
「そう言えるわ。だからいいのよ」
 妖しく笑って瞬華に告げる。
「御主人もそうでしょ。私がこの部屋から貴女と出ても何もおかしいとは思わないわよね」
「そうですね、女同士ですから」
 それは瞬華もわかる。彼女の夫は彼女が男と話したりすると嫌な顔を見せるが女であったならば何も言わないのだ。ましてや彼女が他の女と寝ることなぞ思いもしない。そうした夫なのである。
「別にそれは」
「そういうことよ。これでわかったわね」
 瞬華に対して告げる。
「女ならばいいのよ。誰でも」
「そうなりますか」
「そうよ。わかったらまた」
 身体を元に寝かした。そうして瞬華のその整ったギリシア彫像を思わせる身体に己の妖しい身体を寄せる。二人の身体が闇の中で重なり合う。

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