10部分:第十章
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いた。そこで一人の美女と擦れ違った。
その美女は二十代前半の黒髪の美女であった。背が高く長いその黒髪を後ろに伸ばしている。青く整ったスーツに包まれた肢体はそのスーツの上からもはっきりとわかる程に整っている。とりわけタイトから見える脚が艶かしい。
顔は中国系の顔だった。やはり切れ長の目と細い顔が印象的だ。化粧もその中国風の美貌を際立たせるかのようにアイラインを強調し小さな唇を紅に塗っていた。
沙耶香は彼女に顔を向ける。そうしてすぐに声をかけた。
「待って」
「はい?」
振り向いた時の声も硬質の高さを持つものであった。何処か氷を思わせる声でそれもまた沙耶香にとっては好ましいものであった。この声を聞いて決めたのであった。
「貴女。これから何処に行くのかしら」
「何処にですか」
「ええ。仕事かしら」
そう彼女に問うたのだった。
「今から」
「いえ、違います」
ここで彼女が述べた答えは彼女にとっては望ましくない結果を導くものであった。もっとも沙耶香は彼女がどう答えようが望むものを手に入れるつもりであったが。
「もうそれは終わりましたので」
「じゃあ後は帰るだけなのね」
「はい、そうですけれど」
「わかったわ。なら何の問題もないわ」
そこまで聞いて悠然と笑うのであった。
「それなら。ゆっくりと楽しめるわ」
「ゆっくりと、ですか」
「時間はあるわね」
また美女に対して問う。
「これから夜まで」
「そうですけれど。それが一体」
「時間を聞くのが悪いのかしら」
またあえてとぼけてみせたかのような声を彼女にかける。
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