10部分:第十章
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先程までとは速さが違うがそれでも手を動かす。そうしてその先にある糸で黒薔薇を切り裂いた。黒い花びらが散る。しかし。
「!?」
「そう、これが私の五つめの薔薇」
沙耶香の言葉が笑った。
「白薔薇はこれまでの薔薇とはまた違うわ。それは」
「それは」
「心臓を貫き一瞬のうちに毒を身体に回らせる」
その言葉の間にも薔薇は飛び男の胸に迫る。そうして彼の心臓を静かに貫くのであった。
「白薔薇の毒は黒薔薇の毒よりも鋭く残忍なもの」
男に対するはなむけの言葉のようであった。
「一瞬のうちに心臓から全ての血を抜き取りそうしてその血を己がものとするのよ。どうかしら」
「ふふふ、お見事です」
男は白薔薇を胸に受けながらもまだ笑っていた。しかしその顔はもう死相となっていた。
「まさか。そういうふうな薔薇だったとは」
「意外だったみたいね」
「そうですね。流石にこれは」
男は前によろめきながら述べる。もう終わりなのは明らかであった。
「想像しませんでした。私の負けです」
「では戻るのね」
沙耶香の声が薔薇に覆われた池の中に崩れ落ちようとする男に対して告げた。
「戻る?何処に」
「何処にではないわ。この場合は何にね」
沙耶香はそう言葉を訂正させた。
「生憎だけれど」
「そうですか。仰る意味がわかりませんが」
「貴方は人間ではないのよ」
沙耶香の言葉が彼に告げる。
「貴方は気付いてはいないけれどね」
「人間ではない。それでは私は一体」
「そこまで考える必要はないわ」
崩れ落ち今池の中に落ちようとする男にまた言った。
「貴方はね」
「それは。思いやりでしょうか、私の」
「そう考えるのならそう考えていいわ」
「そうですか。それではそう考えさせてもらいます」
「ええ、どうぞ」
これが最後のやり取りであった。男はそのまま崩れ落ちた。その後には人型の紙人形が落ちていた。その周りを糸でくるまれていた。
「紙の傀儡だったのね。やっぱりね」
ここでようやく沙耶香の姿が出た。すうっと姿を現わしてその紙人形の側まで来る。そうして水面の上に立ちながら見下ろしていたのである。
「となると。操っているのは」
考えを巡らせる。その間に左手の親指と人差し指をパチンと鳴らす。するとそれまで辺りを覆っていた紅薔薇達が消えていく。そうするとそれまで誰もいなかった辺りが急に人がごったがえしていた。どうやら何時の間にか鏡の世界での戦いになっていたらしい。
「世界まで変えられるのね。どうやら思ったより手強い相手ね」
それを確認してからは姿を消した。そうして沙耶香は何事もなかったかのように豫園の観光を再開する。それまでの闘いが嘘であったかのように優雅に楽しむのであった。
豫園での闘いを終えた沙耶香は上海の市街地を歩いて
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