7部分:第七章
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そうだったの。それにしても」
ちらりと警視庁の建物の中を見回す。殺風景と言えば殺風景な事務的なオフィスであった。警察らしいと言うべきであろうか。
「相変わらずね。ここは」
「相変わらずとは」
「味気ないけれど。いい場所ね」
「!?」
「感じないかしら」
そう語ったうえで今度は若い警官に語り掛けてきていた。
「この感じが。警視庁の中の感じ」
「よくわかりませんが」
「わからなければいいわ」
笑って述べてきた。
「わからなくていいこともあるから」
「そう言われると何かおっかないですね」
こうした言葉を聞くとどうにも背筋が冷たくなってしまう。沙耶香もそれはわかっていた。だが悪戯の意味もあってわざと言ったのである。
「ここもそうした噂多いですから」
「そうね」
「そうねって。じゃあ」
「例えば壁に人の顔が浮かび出るとか」
「そうした噂はしょっちゅうかも、ですね」
どうしても警察や自衛隊の施設はそうなってしまう。自衛隊の市ヶ谷なぞはそれでかなり有名になっている。かつては陸軍士官学校もあり訓練により死人もあったからだ。他にも様々な事件があった。中には社会問題にまで発展してしまった事件も起こっているのである。
「あまり聞きたくはないです」
「まあないに越したことはないわ」
沙耶香は楽しむようにして述べる。
「そんな話は」
「全くです。さて」
若い警官は奥の一室の前で立ち止まってきた。そこにはほぼ黒と言っていいダークブラウンの扉があった。そこに何か物々しい名前の部屋の名称がかけられていた。
「こちらです」
「今その部屋の中におられるのね」
「はい」
彼は沙耶香の言葉に答えてきた。
「左様です」
「わかったわ。じゃあ」
それを受けてすっと前に出る。影のように流れる動きであった。
「有り難う」
「あっ、開けますが」
「いいわ、それは」
彼に顔を向けてすっと笑って言ってきた。
「一人でね。いいから」
「左様ですか」
「ええ。だから」
そのうえで言う。
「お疲れ様」
「はあ」
若い警官を退けて部屋に入る。ドアをノックすると低い大人の女の声がしてきた。
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