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黒魔術師松本沙耶香  紅雪篇
4部分:第四章
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ます」
「そうした方がいいな。気になるのなら」
「はい」
 官僚はその言葉に頷いてきた。完全に本心からであった。
「それではそのようにします」
「本気なのだな」
「家族を守る為ですから」
 この点では中々感心な御仁であった。仕事にかまけて家庭を顧みないような人物ではないということだ。
「その為には容易いことです」
「そうか。まあ私はまずこの紅い雪をどうにかしたくてな」
「何なのでしょう、これは」
「それも調べてもらう」
「彼女にですか」
「そうだ。まあここはプロに任せておこう」
「はあ」
 彼は知事の言葉に答える。すぐに頭は普段の切れ者に戻り冷静な考えを導き出してきた。
「そうですな。こういうことはやはり専門家に」
「そういうことだ」
 こうして沙耶香はこの件に関して全てを任されることになった。彼女は雪の降る新宿を歩いていた。
 新宿もまた紅の景色であった。素直に雪化粧と言えない状況であった。
「参ったよな」
「本当よね」
 彼女の横を若いカップルが通り過ぎる。傘をさしているがどうにも雪には慣れていないらしい。それが如何にも東京の人間らしかった。
「こんなに降るなんて」
「しかも紅い雪がね」
 女の子が彼氏に言う。口を尖らせて不平たらたらであった。
「何なのよ、これ」
「さあ」
 彼氏はそれに答えるが彼も何が何なのかよくわかってはいない。
「普通の雪じゃないのはわかるんだけれどな」
「これが普通なわけないわよね」
 女の子はまた言う。
「紅い雪なんて」
「妖怪か何かじゃねえかな」
 彼氏もまた不平たらたらの口でこう言ってきた。
「さもないとこんなのねえぜ」
「そうよね」
 女の子はその言葉に頷く。確かに紅い雪なぞ見てはそうも思いたくなるだろう。雪は白いから雪なのだ。これが紅いとなっては普通の雪とはとても考えられない。
「しかもこんなに降って」
「もう何日もだろ。ずっと降り積もってよお」
 彼氏は上を見上げて実に忌々しげであった。本当にこの雪が嫌らしい。
「最近家に帰った時と朝にはいつも雪かきだぜ」
「あたしの家もよ」
 女の子も言う。
「お父さんだけじゃ手が足りないからあたしまで」
「俺の家も一家全員でな。東京だろ、ここ」
「そうよ」
 女の子は憮然とした声で答える。答えれば答える程不機嫌になってきているようであった。
「しかもここ新宿」
「嘘だと思いたいな」
「けれど嘘じゃないのよね」
「だよな」
 ここで二人は都庁を見上げた。ビル街も今は完全に紅い雪世界だが都庁もそれは同じであった。巨大な高層ビルが完全に紅に化粧していた。美しくはあるが何か得体の知れない妖しさを湛えた美しさであった。この世にあるというよりは別の世界、少なくとも人の世界ではない世界にある
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