第四章
[8]前話
「先生死んだんだね」
「磯女にやられて」
「お父さん達言ってたよ」
「こっちもよ」
「艫綱を下ろした船で寝たから」
「夜の海を歩き回ったから」
それでというのだ。
「磯女に襲われたんだ」
「やっぱり夜の海は気をつけないとね」
「間違っても艫綱を下ろしたらいけないね」
「そうだね」
こうした話をしていてだ、彼もその話の中に入った。先生のお通夜とお葬式が行われたが元々評判の悪い先生でしかも死に方も自業自得だったので誰もが悲しまなかった。
彼はこの事件から暫くして両親、父の勤めていた会社が偶然大阪に本社がありそこに転勤することになったので隠居している祖父を残して大阪に移り住んだ。それでずっとこの大阪にいるのだ。
ここまで室生に話してだ、鉄砲塚は言った。
「それでなんだよ、僕はね」
「夜の海が怖いのか」
「そうなんだよ」
「まあ僕も」
室生も鉄砲塚の話を聞き終えたうえで述べた。
「妖怪は否定しないしね」
「それじゃあこの話は」
「そうだったと思うよ」
実際にというのだ。
「その先生磯女にやられたんだよ」
「やっぱりそうだね」
「言い伝えは本当なんだね」
「うん、だからね」
「天草ではそうしていたんだ」
「夜に海の方に行かないことが多いし」
「艫綱も下ろさない」
このことはだ、室生は自分から言った。
「そうしているんだね」
「そうなんだ」
「成程ね」
「だからこっちに来ても怖かったんだ」
夜の海がというのだ。
「今でもテレビとかで艫綱を下ろしてる船を見てるとどきっとするよ」
「そこから来るかも知れないから」
「そうなんだ、磯女がね」
まさにこの妖怪がというのだ。
「だから怖いよ。大阪にいてもね」
「大阪でそうした話はないけれどな」
「うん、あくまで九州の話だね」
「まあここも妖怪の話があるけれど」
むしろ大阪よりも京都の方がそうした話が多い、長い間都だった京都には人々の長年の怨念も篭っていると言われている。
「その妖怪はいないから」
「そうだよね、けれど」
「今も怖いんだ」
「そうなんだ」
「それでお祖父さんは今も」
「うん、大分歳だけれどね」
それでもとだ、鉄砲塚は室生に話した。
「今も元気だよ」
「それで夜の海にはだね」
「行っていないよ、それで今もね」
「港でjは」
「艫綱は下ろしていないよ」
「妖怪が来ない様に」
そうしているというのだ、そうしたことを話してだった。二人で焼き鳥を食べビールや焼酎を楽しんだ。大阪にいて天草の海のことを思いつつ。
磯女 完
2015・7・29
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