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逆さの砂時計
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 ムカツク、ムカツク、ムカツク、ムカツク!

 なによりムカツクのは。
 こんなバカで身勝手な男共を見捨てられない、私自身の甘さだ。

「……っロ ザ」

 警告音が大きくなる。
 心臓がうるさい。
 ベゼドラが何か言おうとしてる。
 金髪男の顔が愉しそうに微笑んだ。
 全部にまとめて返答してやるよ。

 やかましい! ってな!

「……アリアだかなんだか知らないが、私がそれになれば、クロスツェルの魂だか意識だかを取り戻せるんだな?」

 私の顔のすぐ横にある、男の笑い顔を睨みつけた。
 勝手に溜まる涙のせいで輪郭が歪んでる。

「お前がそれを望むなら」
「じゃあ、やれよ」
「即答だな。アリアに戻れば、『ロザリア』の記憶は消えるんだぞ?」

 そうだよな。
 なんかまだよく分かってないけど、そういう流れっぽい気はしたんだ。
 けど。

「私はロザリアだ。ここで現実逃避してやがるバカがくれた名前がある限り私は消えない」

 紫色の吊り目が、ほんの少し丸くなった。

「なんだっけ。違う時間に観測された事実はなかったことにはできない? んじゃよく見てろよ、ベゼドラ。私は、私の名前と契約する。ロザリアって自我は、『ロザリア』って名前がお前の記憶に残ってる限り、何があっても消えない。この名前が、私の記憶と存在を証明する!」
「……ロ……ザっ」

 ベゼドラが驚き。
 金髪男が小刻みに肩を揺らして。
 唐突に笑いだした。

「く……っは! あっはっはっ!! 面白い性格になったな、アリア。いや、ロザリア。なら、その契約が果たして有効となるかどうか、試してやるよ」

 男が、私の肩に回していた手のひらで首輪に触れて。
 淡い光を放った瞬間、頑丈だった筈の鉄の首輪がボロッと崩れ落ちた。

 『時間』と『空間』を操る力、とか言ってたからな。
 多分、首輪の時間を朽ちるまで進めたんだろう。
 久しぶりに首周りが軽くなった。

「戻ってこい。俺のアリア」

 首輪を壊したその手が、私の額を柔らかく覆う。

 私はベゼドラの手を払い、両腕をだらりと落とした。
 ベゼドラが何か言おうともがいてるが、知らん。無視だ無視。
 後でちゃんと治し……いや、戻してやるから。
 とりあえず待ってろ、バカ男共。

 金髪男の手から、薄い緑色の淡い光が放たれる。
 目蓋を伏せた私は、その光を黙って受け入れた。



 光は額から広がり、頭頂部から足先までをくまなく包み込み。
 肩甲骨を覆うほど長い白金色の髪を更に長く、緩やかに伸ばした。
 小振りな胸は張りよくふっくらと膨らみ。
 四肢も、魅惑的な成人女性の物へと変化していく。
 光はやがて女性の体に溶けて消え。
 ゆっ
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