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黒魔術師松本沙耶香  紅雪篇
16部分:第十六章
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「今日のそれは如何でしょうか」
「いいわ」
 くすりと笑ってそれに頷いてきた。
「普段からいいけれど今日のは特に」
「はい」
 バーテンは彼女のその言葉に頷いてきた。
「そう仰って頂けると思っていました」
「選んだのね」
「左様」
 彼はまた答える。
「寒い夜ですので。せめてワインだけは楽しんで頂ければと思いまして」
「有り難う」
 その言葉と気遣いに礼を述べる。述べてからまた一口飲む。
「今日のこれはただ美味しいだけではないわ」
 そのうえで言う。
「貴方の心も感じるわ」
「勿体なき御言葉」
「少し落ち込んでいたし」
「といいますと」
「大したことじゃないけれどね」
 沙耶香はそう断ってから述べだした。
「ふられたのよ」
「それはまた」
「一度だけれどね」
「ではまた誘われるのですね」
「ええ」
 その問いにこくりと頷く。
「けれど」
「けれど?」
「それで終わりにはしたくはないわ」
 沙耶香はこう述べてきた。
「私は声をかけた娘は必ずこの手の中に収めないと気が済まないのよ」
 そう語りながらグラスを持つ手を見やる。
「何があってもね」
「では今度もまた」
「そうよ」
 グラスを眺めながら答える。ワインに語る自分の顔が見えていた。白い顔がワインの色をつけてそこに映っていた。


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