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黒魔術師松本沙耶香  紅雪篇
11部分:第十一章
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「貴女もそうすればいいのに」
 突き放した言葉を投げ掛ける。その言葉もまた楽しんでいた。
「違うかしら」
「本当に意地悪ね」
 あらためてそれを言う。
「貴女という人は」
「その意地悪を楽しんでいるのは誰かしら」
 それでも言葉の鞭を緩めない。サデスティックに楽しむ。
「誰なのでしょうね」
「言うわね、本当に」
「私は言っているのじゃないわ、言わせられてるのよ」
「そうして言葉で苛めるのね」
「それもいいのではなくて?」
「否定はしないわ」
 佐智子の方でも楽しんでいるのを認めた。どうやら彼女はマゾヒズムであるらしい。整った切れの鋭い美貌からは想像できないものである。
「ではまたね」
「ええ。その間はまた」
「焦らされてあげるわ」
「ふふふ」 
 沙耶香はコートを羽織り警視庁を後にした。紅の雪の中を進みながらあることを考えていた。
「雪・・・・・・紅の雪」
 自身の周りに降り続ける雪を眺めながら呟く。
「若しかしたら」
 そこに何かを感じていた。だがそれはまだ確信となるには程遠かった。彼女はその日は酒を楽しみ夜を過ごした。手掛かりは何もなかった。
 次の日も雪は降り続いていた。それが終わる気配がない。
 沙耶香は朝の街を歩いていた。今は人がそれぞれの学校や職場に向かう時間であった。
 多くの者が歩いている。それはただ歩いているのではない。この雪のせいで車も電車も満足に動かなくなりだしている。そのせいであるのだ。
 このままでは本当に首都機能が停止してしまうだろう。それが危惧されだしていた。沙耶香もそれは知っている。それを解決する為に呼ばれたのだから。
 沙耶香は今新宿駅のところにいた。そこにただいるのではない。探っていたのだ。人の気配を。


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