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黒魔術師松本沙耶香 仮面篇
5部分:第五章
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「泊まり歩くか。何処をじゃ」
「私の泊まる場所はいつも一つよ」
 すぐに楽しそうな反応を見せてきた老婆にまた言葉を返した。
「違うかしら」
「アンカレジでもう堪能したのではないのかえ?」
「それはそれ、これはこれね」
 沙耶香の返答は何処までも色を好むものであった。それこそが沙耶香であると言えば極論になるがそれでもこうした行動が沙耶香なのである。
「一人だけじゃね。私は満足しないわ」
「やれやれ、相変わらずそちらも贅沢じゃのう」
「ニューヨークよね」
 今度は街について尋ねてきた。
「ここは」
「今更何を言うのじゃ?」
 老婆は目を少しおとけさせた。言うまでもないことであるからだ。
「他のどの街じゃ。それを言うと」
「そうね。それで充分よ」
 沙耶香はそれを確認して満足気なものに笑みを変えてみせた。
「人種の坩堝アメリカで特に様々な人間がいる街」
「ふむ、日本のおなごだけでは満足できぬか」
「時には違うワインも飲みたくなるものよ」
 美女をワインに例えてきた。
「他の国のもね」
「アメリカのワインは美味いぞえ」
 老婆はまた沙耶香に言った。
「それもかなりのう」
「ええ。それは知っているわ」
 沙耶香もそれに頷く。目を細めさせたうえで。
「何度も味わっているし」
「色はどれが好きじゃ?」
「どれでも」
 これまた沙耶香らしい返事であった。

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