狂宴
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親切にしてくれてた数少ない親友だった。
それだけ。
久しぶりに会って懐かしいと思ったのは確かだが、クロスツェルが嫉妬するような間柄ではなかったのに。
つくづく莫迦野郎だ。
「最近、ロザリアさんはいらっしゃらないのですね。お体の調子でも崩されたのですか?」
礼拝に訪れた老齢の女性が心配そうに首を傾げる。
クロスツェルの振りをしたベゼドラは、にっこりと微笑んで答えた。
「彼女には良い縁談がありましたので。今頃はお相手の方と幸福な時間を過ごしているでしょう」
女性は目を丸くして、皺だらけの指先を口元に当てる。
「まぁ……そんな気配は見受けられませんでしたのに。良い事ですけれど、残念ですわ。もうお会いできないのかしら」
「全ては女神アリアの思し召し。私も、あの笑顔が見られないと思うと灯火が消えたような心地ですが……今はただ、彼女の幸せを願うばかりです」
「……そうですわね」
両手を胸の前で組み、教会の入口を飾るレリーフに向かって頭を下げる神父。それに倣って、女性も軽く頭を下げた。
「それでは神父様、ごきげんよう」
「貴女に、女神アリアの祝福が舞い降りますように」
最後の一人を見送って、教会の門を閉じる。
澄んだ紫色の空を見上げて……ベゼドラは教会の中へと戻った。
「狸みたいだな、お前」
教会内部総ての扉に鍵を掛けてから燭台を持って地下室に入るベゼドラを、一部始終映像として見ていたロザリアが、床に座ったまま見上げた。
入り様の一言に、ベゼドラは首を傾げる。
「私はお前と結婚した覚えなんか無い」
「!」
地下室に閉じ込められて約二ヶ月。
映像は殆ど丸一日、いつでも自由意思で見られるようになっていた。
この映像については、やはりベゼドラも知らなかったらしい。
金色の目が少しだけ見開かれた。
「……遠見か。何故そんな物を使える?」
「知らない。お前が何かしたんじゃないなら、アリアの思し召しかもな」
「アリアはお前だ」
「それこそ知るか。私はロザリアだ。莫迦な神父が遺した「ロザリア」だけが、私の名前だ」
浮浪時、着ていた服は盗んだ物だった。靴も食べ物も殆ど盗品。稀に施しとして貰った物もあるが、全部消耗品だった。死ぬまで消えない物をくれたのはクロスツェルだけだった。
自分だけの、自分を表す固有名詞。
小さいからチビとかそんなんじゃない。
自分を形作る、名前。
クロスツェルがくれた存在証明。
「私はロザリアだ」
だけど、名前をくれた莫迦はもう居ない。クロスツェルと同じ顔をした男は、クロスツェルと同じ声でロザリアと囁きながらアリアとも呼ぶ。
さすがに二ヶ月も経てばいろいろと慣れてきたが、気分は最悪だ。
「……そうだな。お
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