「誕生日は滅多に言えないことを言える絶好のチャンス」
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妹に勝手な注文をして先に進んでいく。
何がなんだか分からず、双葉の頭に疑問符ばかり増える。
ただ少し前にも今と同じようなことがあったような気がする。
そう、誰かに頬を軽く叩かれたような……
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――…まさか!
顔が真っ赤になった双葉は急いで銀時のもとへ走り出した。
「あに――!」「お、きれーな月が出てんな」
追いかけて事の真相を聞こうとしたが、銀時はふいに立ち止まって夜空を眺めた。
つられて双葉も夜空を見上げると、美しく輝く月が二人を照らしていた。
「お月見すんのにもってこいだな」
「まだ食べる気か」
「ブラックホールのてめーが言うな」
皮肉を言い合う兄妹は互いに苦笑する。
ふと双葉は聞きそこなった疑問を思い出すが、口にするのをやめた。
ただの思い過ごしだ、と。仮にそうだったとしたら、かなり恥ずかしい。
そんなバカバカしい考えを捨てて、双葉は兄と一緒に月を眺めた。
暗闇の世界を静かに照らす夜の太陽を。
――月はいつも闇から護るように人々を照らしている。
――でも私を照らすのは月のように静かな光じゃない。
――もっともっと熱く燃える輝かしい光。
――ああ。私はいつも照らされてばかりだよ……。
どんな暗闇の中にいても
いくら陰が差しこもうと
そのたび心を照らしてくれる光がある。
それはとても暖かく優しい光。
けれど――
――……私はいつまで照らされてる気だ?
ふとそう思う。
その光が決して消えることはないと信じている。
だが、ずっと照らされてるわけにもいかない。
離れなきゃいけない日はいつか来る。
そう思うようになったのは大分前だが、未だに踏ん切りがつかない。
とはいえその心構えをするのは、少々気が早いと思う。そんな話が浮かぶ気配すら兄にはないのだから。
それなら今はまだいいだろうと、双葉はもう少しだけその光のそばにいることを選ぶ。
彼女の前に常夜の世界を照らす『月』が現れるその日まで。
=終=
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