14部分:第十四章
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て身を屈めさせた。そこに力を込めていた。
「遠慮なくね」
そして姿を消した。その直後に。
姿を現わした。それは沙耶香のすぐ上であった。
「もらったよ」
その右手に持つ刀が眩く輝いた。闇の中で白銀の光を放つ。だがその光は禍々しい光であった。血に餓えた魔物の目の輝きと同じ光であった。
「仮面がまた一つ。これで」
沙耶香の頭上に刀を振り下ろす。沙耶香はそれに対して何も動こうとはしない。顔の丁度上に振り下ろす。そのままいけば確実に顔が落ちる。
だがそうはならなかった。刀は沙耶香の身体をすり抜けただけであった。肉と骨を切る独特のあの感触のかわりに空を切る感触だけが伝わるのであった。
「あれっ!?」
道化師はその感触を直接手に感じて声をあげた。おかしいとすぐに感じた。
「これは一体」
「簡単なことよ」
上から沙耶香の声がした。
「それは私であって私ではないの」
「ということはつまり」
「そう、幻影よ」
上から沙耶香の声がした。着地した道化師がその上を見上げると彼女がいた。宙の上に悠然と立って彼を見下ろしていたのである。
「これでわかってくれたかしら」
「ふうん、面白いことができるんだね」
道化師は攻撃が失敗しても特に困った感じはなかった。相変わらず平気な顔をしていた。それと共に楽しむ様子も見せてさえいた。
「幻だけじゃなくてそんなことまで」
「私にとっては大したことじゃないわ」
まだ道化師を見下ろしている。両手はズボンのポケットに入れたままである。
「全然ね。魔術師だから」
「マジシャン?」
「そうじゃないわ」
マジシャンというのは否定した。
「手品はできないわけじゃないけれどもっと凄いのができるから」
「ふうん」
「魔術師よ。覚えておきなさい」
「じゃあさ、魔術師だったら」
道化師は上を見上げていた。見上げながら構えを取りだしていた。
「他にも色々できるんだよね」
「そうよ。見たかったら来なさい」
挑発であった。道化師をあえて挑発してきた。
「見せてあげるから」
「言われなくてもそうするつもりだよ」
それは本音であった。彼も最初からこれで終わらせるつもりはなかった。それは何も沙耶香に対して屈辱や怒りを感じているからではない。楽しいからだ。それだけだ。彼は切ることに対しても『仮面』を集めることにも無常の喜びを見出しているだけであったのだ。
「今からね」
「空は。飛べるのかしら」
「そんなのは簡単さ」
道化師はその無邪気な笑みで沙耶香に答えた。仮面は表情を変えない筈であるが何故かその顔は変わっているように見えた。血生臭い笑みが上から見えたのだ。
「ほんの少しの足場さえあればね」
「足場、ね」
沙耶香は辺りを見回す。見たところ教会の建物や木といったものが
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