第11話 京都惨殺事件
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「なぁ、トシ。今、この京で噂になっている事件を知っているか?」
酒は進んではいるが二人にはまだ物足りないといった感じであった。
「噂?なんのだい?」
土方は近藤の問いに耳を傾けた。
「幕府の要人に関しては言うまでもないが、異人も薩摩も長州も土佐も誰彼かまわず惨殺しまくっている狂人の話を」
近藤は一気に酒を飲みほした。
「あぁ、その話は耳にしているよ。なんでもその殺され方が尋常じゃないっていうのも。しかも薩摩の中村半次郎も逃げ帰ったていう話じゃない」
土方は盃に目を落として答えた。
「そうだ、なんでも細切れらしい。そんなこと刀では到底無理だ」
近藤はぶるりと身震いを一つした。
「あぁ、やれるとしても一刀両断くらいか」
「一刀両断でも難しいだろう。それなのにどうやったら細切れになるんだ?」
近藤は盃に酒を注ぎながら興奮気味に言った。
「さぁな」
土方はあくまでも冷静に答えた。
「それとこれも噂なんだが、その狂人だが・・・・」
近藤の酒を注ぐ手がこまめに震えているのを土方は見逃さなかった。
「その狂人はどうやら土佐の岡田以蔵じゃないかって話だ」
「ば、ばかな。岡田以蔵は土佐で打ち首にあったと聞いているぞ」
土方は急に立ち上がり近藤を見つめた。そのせいか、土方の盃は倒れ酒がこぼれおちた。
「落ち着けよ、トシ。確かに岡田は死んだという話はある。が、我々はその死体をみたわけじゃない」
「では、土佐が嘘を流したってことかい?」
土方は立ったまま近藤に問いかけた。
「いや、それはわからない。何故なら、土佐人もやれているわけだから。それにいくら人斬りと言われた岡田でもその殺し方は無理があるだろう」
近藤は立ったままの土方を見つめることもなく盃を見つめているだけだった。
「まさか、近藤さんは魑魅魍魎のせいだというのかい?」
土方は椅子に座り直し盃をもとに戻し酒を注いだ。
「さぁな、魑魅魍魎のせいかも岡田のせいかもわからんが、どうやら今回の酒席はそのお鉢が我らに回ってくるかもしれないってことさ」
「なるほど、そういう事だったのか」
近藤の話に土方はニヤリと笑った。
「いいじゃないか、近藤さん。もし、お鉢が回ってこようと構わないじゃないか。会津の名を借りて好き勝手やってきたんだ。とことん、利用させて貰おう」
土方は酒を一気に飲み干した。
(トシ、やはり、お前は・・・・・・・・)
近藤は自分の今までの見解を口にだそうとしたが飲み込んだ。
案の定、会津藩京都見回り役総大将・松平容保から新撰組にその惨殺事件を担当するようにと勅命が下ったのは、その日から数日後であった。
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