ベゼドラ
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先を向ける。
この教会の住民は、クロスツェル神父以外ロザリアしか居ない。擦れ違う信徒は全員通いの者だ。時刻が過ぎれば皆自宅へと帰って行く。何をするにも都合が良かった。
クロスツェルの皮を被ったベゼドラは、礼拝堂に居る人間達と適当に話しながら、着々と準備を整える。
ロザリアが教会に来て一年と四ヶ月目の深夜。
宴は幕を開けた。
「おーい、クロスツェル?」
呼び出しに応じたロザリアが、月明かりだけが照らす薄暗闇に足を踏み入れる。
絨毯の上を歩いても足音が響く静寂の中、祭壇の前に黒く浮かぶ人影が彼女に振り向いた。
「チビ?」
「え あれ、ウェーリ? どうしてこんな時間に居るんだ?」
褐色の肌に銀色の髪と目を持つ好青年は、自身の肩を持ち上げて「さぁ?」と首を傾げた。
「帰り際、神父様に呼び止められてさ。チビが来るまで此処に居ろって言われたんだけど……お前が用事あるんじゃないのか? そろそろ本格的に眠いんだが」
「はあ? 私はクロスツェルに呼ばれて来ただけで……って、なんか変な匂いがするな。甘いような酸っぱいような……」
「ああ、これだ。さっき、神父様が緊張緩和の効果がある香だとか言って焚いてった。何かの花かな」
ウェーリが祭壇の上に置かれた白く小さな香壷の蓋を開くと、漂う香りが濃度を増して二人の鼻を突いた。ウェーリは平気そうに中を覗くが、ロザリアはその場に膝を落とし、床に両手を突いてしまった。
「おい? 大丈夫かチビ……」
振り向いたウェーリが慌てて彼女の肩に手を置き……数歩退いて、どすん、と祭壇手前の低い階段に転がった。
伏せていたロザリアの目に、少し離れた場所で仰向けに倒れたウェーリの体と、心臓の位置に突き立てられた短剣らしき物の柄が映る。
「…………ウェー……リ?」
「触るな」
愕然としながらウェーリに右手を伸ばしたロザリアの背中を、神父が覆い被さるように抱き締める。
「な んだ、これ……。なに、が」
「ロザリア……」
ウェーリに伸ばしたロザリアの手を、神父の右手が掴む。
その白い指先を顔に引き寄せて口付けると、脇を通して腹部に当てた左手が白いワンピースに皺を刻みながら這い上がり、控えめな膨らみの右片方を乱暴に鷲掴んだ。
「痛ッ!? ……な、に……何してんだよ、クロスツェル!?」
痛みで正気を取り戻したロザリアは腕を振り回して抵抗するが、ぴたりと寄せた神父の体は剥がれない。
「離せ、バカ! ウェーリが!」
「黙れ!!」
「!?」
胸を掴んでいた左手が下着ごとワンピースを引き裂き、白い柔肌を冷えた空間に曝した。
右手を離してその背中をドンと押し、伏した彼女に神父の体が伸し掛かる。
手を伸ばせば届く距離に、ウェーリの足があった。
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