10部分:第十章
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方から激しい拍手と歓声が聞こえてくる。カーテンコールなのは言うまでもない。素晴らしい演奏であればある程カーテンコールも長くなる。それがオペラというものだ。
「聴こえますね」
「ええ」
沙耶香は答える。答えながら女性を見る。見れば少し誇らしげな顔になっていた。
「今彼女はその中にいます。ですから」
「そう」
女性の言葉に頷く。
「取材でしたら暫しお待ち下さい」
「ところで」
沙耶香は今の言葉と先程の誇らしげな顔を見ながら女性に問うた。
「貴女は随分彼女について言うわね」
「当然です」
沙耶香に顔を向けて答えてきた。
「チェルリーナ=シエナ」
そのロジーナ役の名前だ。イタリアミラノ出身であり今売り出し中のメゾソプラノだ。このままいけばいずれはテレサ=ベルガンサやアグネス=バルツァに匹敵するメゾになるだろうとも評価されている美貌と技量を併せ持った歌手だとされている。
「彼女のマネージャーですから」
「そう、マネージャーだったの」
「ですから」
また沙耶香に対して述べる。
「取材等はまず私は」
「実は彼女には今は用はないのよ」
沙耶香は目を細ませてこう述べるのだった。
「シエナに用はないと」
「ええ」
妖しい笑みを浮かべていたがマネージャーはまだ気付いてはいなかった。
「今はね」
「ではどうしてこちらに」
「貴女に用があるのよ」
すっと一歩踏み出しての言葉であった。その知的に整った顔を覗き込んでいた。まるでそのまま全てを吸い取ってしまうかのように。
「貴女にね」
「私に興味があるって」
「そう、今は」
さらに一歩踏み出す。そうしてその背を抱いた。
「今から何をされると思っているのかしら」
「そんなことは」
「恐れているわね」
マネージャーの心を覗き込んでの言葉であった。
「これから起こることを。そうね」
「まさか貴女は」
「ええ、そうよ」
そのマネージャーの恐れを言うのだった。心の中に忍び込んで。
「貴女を。抱くわ」
「女同士で」
「それがどうかしたのかしら」
沙耶香の言葉にはモラルを嘲笑するものがあった。少なくとも同性愛といったものを否定するようなものはそこには一切存在しなかった。
「女同士であるということが」
「人を呼びます」
「呼べばいいわ」
あえてこう返した。口元に妖艶な笑みを浮かべマネージャーの背を抱きながら。まるで男が女を抱くような姿であった。だが沙耶香は女である。そこに完全な違いがあった。
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