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支え
3部分:第三章
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 ここで潤子はあるものに気付いた。
「赤煉瓦まで」
「はい」
 壊れていた。空爆によるものであるのは言うまでもない。
 赤煉瓦は舞鶴の市民にとっては誇りのようなものだ。海軍と共に生まれ、海軍と共に栄えてきた街だ。海軍は江田島の兵学校がとりわけ有名であるが赤煉瓦がトレードマークともなっていた。その赤煉瓦が崩れてしまっていることに潤子は悲しいものを感じると共に痛々しくなった。
「私小さい頃よくここに来たの覚えているかしら」
「勿論ですよ」
 女中もそれに応えた。
「よくお連れしましたから。暑い日でも寒い日でもここに来ましたね」
「ええ」
「あの頃のことはよく覚えていますよ。ほら、私が羊羹を買いましたよね」
「私と二人で食べた」
「はい」
 海軍では羊羹がよく食べられた。あとラムネもである。海軍が誇った巨大戦艦大和には羊羹やラムネを作る場所まであった程だ。その大和ももう沈んでしまっているが。
「あの羊羹は美味しかったわ」
「あら、アイスクリームの方がいいって駄々をこねていたのはどなたでしたから」
「昔のことなんで覚えていないわ」
「ずるいこと」
「うふふ」
 話していると上機嫌になってきた。笑っていると気持ちまでよくなってくる。そしていい話も舞い込んでくるものだ。最初は悪くとも。
「うっ」
 ここで潤子は突如として胸を押さえはじめた。
「お嬢様、まさか」
「ごほっ」
 危惧した通りであった。潤子は咳き込みはじめた。
「ごほっ、ごほっ」
 力のない咳が続く。咳き込むその整った顔に苦悶の色が浮かぶ。見るからに辛そうであった。
「大丈夫ですか」
「え、ええ」
 だが手にしたハンカチに血があった。それ程多くはなかったが血を吐いたのは事実であった。
「今のはそれ程多くはないわね」
「けど」
「大丈夫よ。けれどこれ以上歩いたら貴女に迷惑がかかるわね」
「私は」
「いいのよ。戻りましょう」
「はい」
 戻ろうとした。しかしそこで呼び止める者がいたのである。
「あの」
「何か」
 二人は声がした方を振り向いた。するとそこに一人の白い海軍将校の軍服を着た男が立っていた。
「大丈夫でしょうか」
「え、ええまあ」
 どうやら今血を吐いたところを見られたらしい。少し狼狽を覚えた。
「一応は。気分もよくなりましたし」
「しかし用心することが大事ですね。こちらに来られませんか」
「こちらにとは」
「病院ですよ。海軍の」
「病院ですか」
「薬もありますし。如何でしょうか」
「そうですね」
 潤子はちらり、と考えを巡らせた。病院に行ったとなれば女中も怒られはしまい。それに薬をもらえれば少しは楽になる。そう考えると迷いはなかった。
「わかりました」
 その申し出を受けることにした。それに病院なら
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