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支え
2部分:第二章
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いるだけで何か気が晴れるわ」
「それはよかったです」
 そう言いながら屈んで雪を少し手に取った。それを潤子に差し出す。
「何が見えますか」
「何か小さな宝石が」
 彼女は雪の結晶を見てそう言った。
「眩しいわね。何か」
「けれど綺麗ですよね」
「そうね」
 それに頷いた。
「何かこれを見ていると気が晴れてきたわ」
「左様ですか」
「ええ。これで忠行様もおられたらいいのだれど」
「それは流石に贅沢でしょう」
 女中はそれを聞いて苦笑した。
「幾ら何でもそれは」
「そうね」
 潤子もそれを聞いて苦笑した。
「これで満足よ。じゃあ」
「はい」
 女中に案内され部屋に入ろうとする。だが部屋に入ったところで一人の青年が姿を現わした。その彼であった。
「忠行様」
「暇ができましたので」
 彼は微笑んで彼女にそう答えた。
「暇が」
「はい」
「どういうことですの?」
「今までは駆逐艦に乗っていましたがこちらの基地司令部の配属となりました」
「司令部の」
「はい、軍医として。それでこちらに報告に来ました」
「そうだったのですか」
「これで今までよりこちらに来れる機会が増えると思いますが」
「それは何よりです」
 潤子はそれを聞いて素直に微笑んだ。
「では機会がありましたら是非」
「はい」
 忠行もそれに頷いた。
「宜しければ」
「ええ」
 何処かぎこちなかった。戦争と病気が二人をそうさせていた。それがなければこれよりもっと普通の婚約者同士としての付き合いが可能であったろうに。女中はそれを思うと不憫でならなかった。
 それから忠行は今までにも増して潤子のところに顔を出すようになった。それに伴い潤子の病状も少しましになっていた。心が晴れやかになると病もよくなるということであろうか。

 白い冬が過ぎ桜の春となった。それはすぐに過ぎ去り紫陽花の花が咲く梅雨となった。
 この時機舞鶴はとかく雨に悩まされる。舞鶴の雨の多さは有名であり潤子もそれは子供の頃から肌で感じ取っていた。
「生憎の雨ですね」
「ええ」
 障子の向こうから話し掛ける女中に頷いた。部屋の中にいても雨の音が聴こえてくる。
「本当に舞鶴は。雨が多くて」
「その雨もね。慣れると愛しいものよ」
 しかし潤子は雨でも機嫌は悪くはなかった。
「この雨はね、不思議なのよ」
「何故でしょうか」
「いつも降っていると思うでしょ。けれどそうじゃないの」
「そうでしょうか」
 女中もまた舞鶴に生まれていた。だからこの雨のことは知っている。彼女の知る舞鶴の雨は何時でも降っている忌まわしい雨であった。雨は結核にも悪い。そうした意味でも忌まわしかった。
「時々晴れるのよ」
「はい」
 それは彼女も知っていた。
「その時に限ってね
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