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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百六十九話 襲来
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事で市民は安心している様だ。

「妙ですな。イゼルローンと違ってフェザーンには要塞が無い。攻撃を躊躇う理由は無い筈だがフェザーン方面は本気で攻めない、こちらには敵は未だ来ない、帝国軍は何をやっているのか」
「ええ、腑に落ちない事ばかりです」
カールセン提督がヤンに話しかけている。猛将と評価の高いカールセン提督にとっては現在のただ敵が来るのを待つという状況はなんとももどかしい事なのだろう。

「ヤン提督、帝国軍はヴァレンシュタイン元帥がイゼルローン要塞に到着するのを待っているという事は有りませんか」
「ヴァレンシュタイン元帥が此処に来てから本気で攻撃を始めるという事ですか」
「何故ヴァレンシュタイン元帥が遅れているのかは分かりませんが彼が来るのを待っている。彼がこの遠征の総司令官ですからな」

なるほど、帝国最大の実力者に敬意を払っているというわけか。彼方此方で顔を見合わせている姿が見えたがヤンは少し眉を顰めている。不同意のようだ。ヤンの様子を見てカールセン提督が“フム”と声を出した。余り拘泥しないところを見ると思い付きのような考えなのかもしれない。

「急な体調不良で遠征軍が進撃を停止しているという事は無いでしょうか? ヴァレンシュタイン元帥は余り身体が丈夫ではないと聞いた事が有ります」
ムライ参謀長の言葉にパトリチェフ副参謀長が“なるほど”と頷いた。エーリッヒ・ヴァレンシュタイン元帥、帝国軍の名将であり同盟にとっては最大の敵。彼によって同盟は恐ろしい程の損害を受けている。その彼の唯一の弱点が健康に難ありという事は同盟の人間なら誰もが知っている事だ。

「フェザーン方面の帝国軍の動きが鈍いのもそれが理由では?」
ムライ参謀長が言葉を続けた。確かに有り得ない話ではない。指令室の彼方此方で頷く姿が見えた。
「もしそれが事実なら元帥の体調が戻れば帝国軍は押し寄せて来ますな。さて、何時になるのやら」
カールセン艦隊のビューフォート参謀長が溜息混じりに発言すると他からも溜息を吐く音が聞こえた。皆、待つ事に疲れ始めている。

「ヤン提督!」
オペレーターが緊張した声を上げると司令室の空気が一気に引締まった。敵か?
「哨戒部隊から緊急連絡です! 帝国軍と接触!」
敵だ! ようやく帝国軍が来た! 司令室が興奮している。心拍数が跳ね上がったような気がした。
「形状は球体またはそれに類する物、材質は合金とセラミック、質量は……」
声が途切れる、オペレーターは蒼白になっていた。ムライ参謀長が“質量は如何した?”と苛立たしげに声をかけた。

「質量は、質量は概算四十兆トン以上です」
声が震えている。“四十兆トン?”、“馬鹿な、何だそれは?“、と声が上がった。
「質量と形状から判断して直径四十キロから四十五キロの人工天体と思わ
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