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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百六十九話 襲来
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いた。



宇宙暦 799年 3月 12日  イゼルローン要塞  アレックス・キャゼルヌ



『では未だ帝国軍は現れないのかね』
「はい」
ヤンが答えるとスクリーンに映ったボロディン統合作戦本部長が顔を顰めた。
『帝国軍は一体何をやっているのか……。本当なら二月の末には現れてもおかしくないのだが……。二週間は遅れている』
本部長の言葉に司令室の彼方此方で頷く姿が有った。

「フェザーン方面の状況は如何なのでしょう?」
『今のところは問題無い。味方は帝国軍を押し返しているよ。もっとも帝国軍も本気で攻撃を仕掛けているわけでは無いようだ。ビュコック司令長官からは帝国軍の動きは鈍いと聞いている。……少し気になるところだ』
「そうですね……」
ヤンは憂鬱そうにしている。隣りに居るカールセン中将も同様だ。

フェザーン回廊では既に戦闘が始まって二週間が経つ。味方はフェザーン回廊の狭隘部、比較的帝国側に近い場所で防衛戦を行っている。帝国軍は強攻すれば損害が馬鹿にならないと見ているのだろう。だが二週間だ、いくらなんでも二週間も無為に過ごすとは……。有り得ない事だ、にもかかわらず帝国軍は本気で攻撃を仕掛けてこない。どういう事なのか……。

『問題はフェザーンそのものだ。反ペイワード運動が酷い』
「……」
『ペイワードをリコールしようという動きが出ている』
「長老会議でしょうか」
本部長が頷いた。
『市民からも出ている。今のところは同盟軍の陸戦隊が居るから本格化していないが防衛線を突破されればあっという間にリコールされるだろうな』
ボロディン本部長の口調は苦い。

『おそらくは地球教、ルビンスキーが動いている。ペイワードからは反ペイワード派を拘束してくれと何度か要請が出ている』
「要請を受けるのですか?」
ヤンの口調は不同意という響きが有った。ボロディン本部長が首を横に振った。
『市民の支持は必ずしもペイワードには無い。今でさえ市民をかなり抑圧している。これ以上は危険だろう、拘束は逆効果になりかねない』
本部長の口調は更に苦いものになった。

『ペイワードは今リヒテンラーデ侯と接触している。帝国と同盟の和平交渉をと向こうに訴えている』
「状況は如何なのでしょう?」
『思わしくは無い。もっとも接触は維持出来ている。戦局が膠着するかこちらに有利になれば和平交渉は本格化するかもしれない』

彼方此方から溜息が聞こえた。頼りない話だと思ったのだろう。だが可能性が有る以上同盟はペイワードを切り捨てられない。ペイワードもその事は分かっているだろう。同盟に対し強気に出るのもそれが有るからだ。その後、ハイネセンの状況を話して通信は終わった。ハイネセンは比較的落ち着いているらしい。フェザーン方面で戦局が膠着している
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