クロスツェル
[4/4]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
その魂と器を寄越せ。アリアの鍵よ!』
自分が何を言っているのか解らない。
ただ一つだけ理解できたのは。
この自分の言葉を受け入れれば楽になれる、ということだ。
クロスツェルは、そのささやきに……頷いた。
『契約は成された。永遠の闇に眠れ、哀れな神父クロスツェル』
祈りを捧げるように。
あるいは、安らかな眠りへと誘われていくかのように。
静かにうつむいて目蓋を閉じたクロスツェル。
その胸を、水面から伸びたもう一人のクロスツェルの腕が貫いた。
クロスツェルの意識は途切れた。
もはや、この世界にクロスツェルという名の愚かな神父は存在しない。
女神に仕え、女神を愛した敬虔なる一人のバカな男は。
悪魔に魂を喰われて消滅した。
さて、苦しみからの解放という契約を遂行しようか。
女神が微笑んだ相手を消し去り、次は女神を……
「……なんだ、コレは」
立ち上がったクロスツェルの両目から、水滴が溢れて零れ落ちた。
それが涙だと知覚した途端、胸の奥が急に締めつけられる。
「クロスツェル? お前、またそんな所に入ってんのかよ」
背後から聞こえてきた、それはクロスツェルを苦しめた女の声。
悪魔を封じた、憎い女神の声。
「早く出て来いよ。本当に風邪引いても、私の力じゃ治せないぞ」
苦笑いを浮かべる女に振り返って……
湧き上がった衝動が人間の物なのか、悪魔の物なのか。
判別できなかった。
心臓が踊る。
血が騒ぐ。
触れたい。
抱き締めたい。
無理矢理引き裂いて、声が出なくなるまで喘がせて、涙の一滴も逃さず、女の全部を喰い尽くしたい。
女が、アリアが、ロザリアが、欲しい。
……だが、まだ喰らわない。
女神が悪魔に施した封印は、完全には解けていないのだ。
現時点で、何の策もなく女神に手を下すのは難しい。
「そう、ですね」
悪魔はクロスツェルのフリで笑う。
水を蹴って池から出れば、女が背中を軽く叩いた。
神父の顔に残ってる涙を気にしているらしい。
くだらないことに目が行くものだ。
さて、復活の宴の準備を始めようか。
お前の愛も、お前のこの体で叶えてやろう、神父クロスツェル。
だからもう、心臓を引き裂くようなその叫びは、やめてくれ。
「行きましょうか、ロザリア」
胸を穿つ鋭い痛みを隠して。
悪魔はロザリアに優しく微笑んだ。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ