クロスツェル
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肌に銀色の短い髪が良く似合う好青年だった。
髪と同じ銀色の目が、ロザリアを柔らかく見つめる。
「あー……ま、いろいろあったからさ。今はロザリアって名前なんだ。ウェーリこそ、教会なんかに何の用だよ? 下町の荒くれ王子が」
「その呼び方やめれ! 俺、仕事決まってさ。上手く行くようにって願掛け? みたいなもんだな」
「へーっ! 良かったじゃん」
おめでとうと男を祝福する彼女の笑顔が眩しくて。それを向けられた男が憎くて。クロスツェルが理性を保って聞き取れた会話は、其処までだった。
説教を終えても、二人は昔話に花を咲かせていた。
クロスツェルはいつも通りに勤めを果たした後、まだ明るい内に噴水へと飛び込んで膝を落とした。
「……罰をお与えください……アリアよ! 汚れた私に、どうか罰を! アリア!!」
自分が知らないロザリアを知る、あの男が憎い。
笑顔を向けられた、あの男が憎い。
ロザリアに触れるな。
ロザリアに語りかけるな……!
ロザリアは私の……っ!
『苦しいか、クロスツェル』
地の底から響く声。
クロスツェルは一瞬驚き……水面に映るもう一人の自分と目が合った。
彼は、笑っている。
『逃れたいか、その苦しみから』
それがなんなのかは解らない。
解らないが、クロスツェルは答えた。
「私は……ロザリアを……」
『そう、お前はロザリアを』
「……アイ シ テ、ル……」
ぱりん……っ と、クロスツェルの頭の奥で何かがひび割れる音がした。
そして、もう一人の自分が愉快そうに高笑いを始める。
『その悩み、俺が引き受けてやろう。対価として、その魂と器を寄越せ。アリアの鍵よ!』
自分が何を言っているのか解らない。ただ一つだけ理解できたのは、この自分の言葉を受け入れれば楽になれるということだ。
クロスツェルはその囁きに……頷いた。
『契約は成された。永遠の闇に眠れ、哀れな神父クロスツェル』
目を閉じたクロスツェルの体を、水面から伸びたもう一人のクロスツェルの腕が貫いた。
クロスツェルの意識は途切れた。もはやこの世界にクロスツェルという愚かな神父は存在しない。
女神に仕え、女神を愛した敬虔なる一人の馬鹿な男は、悪魔に魂を喰われて消滅した。
さて、苦しみからの解放という契約を遂行しようか。
女神が微笑んだ相手を消し去り、次は女神を……
「……なんだ、コレは」
立ち上がったクロスツェルの両目から水滴が零れた。
それが涙だと知覚した途端、胸の奥が急に締め付けられる。
「クロスツェル? お前、またそんな所に入ってんのかよ」
それはクロスツェルを苦しめた声。
悪魔を封じた、憎い女の声。
「早く出て来いよ。本当に風邪引いて
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