クロスツェル
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
けていく背中を見つめながら。
クロスツェルは、ぎりっと奥歯を食い縛った。
彼女は女神アリアが人の世に遣わした聖女。
自分は女神アリアに仕える聖職者。
数歩離れた、この距離が正しい。
これ以上は立ち入るべきではない。
自らで強く引いていた境界線は、その日。
礼拝堂に入ったロザリアによって、粉々に砕かれた。
「……ウェーリ!?」
礼拝堂の入口で目を瞬かせたロザリアが。
祭壇を見上げて立っていたその男に向かって、突然走り出した。
男も驚いた様子で振り返り、嬉しそうに笑う彼女を見返す。
「チビ!? いきなりいなくなったと思ったら、こんな所で何してんだよ!」
親しげな手つきでロザリアの髪をくしゃくしゃと撫でた男は。
褐色の肌に銀色の短い髪がよく似合う、二十代前半の好青年だった。
髪と同じ銀色の目が、ロザリアを柔らかく見つめる。
「あ、うん。まあ、いろいろあったからさ。今はロザリアって名前なんだ。ウェーリこそ、教会なんかに何の用だよ? 下町の荒くれ王子が」
「その呼び方やめれ! 俺、仕事が決まってさ。うまくいくようにって……願掛け? みたいなもんだな」
「へーっ! 良かったじゃん」
おめでとうと、男を祝福するロザリアの笑顔が眩しくて。
それを向けられた男が憎くて。
クロスツェルが理性を保って聴き取れた会話はそこまでだった。
説教の時間が過ぎても、二人は昔話に花を咲かせていた。
いつも通りに勤めを果たした後。
クロスツェルは、まだ明るいうちに噴水へと飛び込んで、膝を落とした。
「罰をお与えください、アリアよ! 汚れた私にどうか罰を! アリア!」
自分が知らないロザリアを知る、あの男が憎い。
ロザリアに無邪気な笑顔を向けられた、あの男が憎い。
ロザリアに触れるな。
ロザリアに語りかけるな……!
ロザリアは、私の……っ!
『苦しいか、クロスツェル』
地の底から響く声。
クロスツェルは一瞬驚き……水面に映るもう一人の自分と目が合った。
彼は、笑っている。
自分を憐れむように。
自分を皮肉っているかのように。
目元と口元を嫌みに歪めて。
自分を嘲笑っている。
『逃れたいか、その苦しみから』
それがなんなのかは解らない。
解らないが、クロスツェルは答えた。
「私は……ロザリアを……」
『そう、お前はロザリアを』
「……アイ シ テ、ル……」
ぱりん……っ と。
クロスツェルの頭の奥で、何かがひび割れた。
そして、水面に映っているもう一人の自分が愉快そうに高笑いを始める。
『その悩み、俺が引き受けてやろう。契約の対価に、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ