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逆さの砂時計
クロスツェル
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な少女の幸福を祈った。



 教会の中庭に噴水が在る。
 平均的な身長の成人男性を縦に三人並べた程度の大きな女神像が、蓮の葉が浮かぶ丸い池の中央に立って、掲げる壷から恵みの水を注いでいる。
 一昼夜総ての勤めを果たした後、池の手前で膝を突き、己の為した事と至らなかった事、反省すべき事を女神に報告するのが、クロスツェルの日課だった。
 ロザリアが教会に来て半年強。報告内容の大半は反省になっていた。
 未熟な己を恥じつつ、懸命に祈りを捧げる。
 「私は女神アリアに仕える者。生涯を祈りに捧げ、迷える者を導く役目を賜った聖職者です。それ以外であってはならない」
 誰かと話す彼女を見ると、何故か心がざわついた。教会を走り回る姿を目で追っているのは、彼女が心配だから。それだけ。それだけ。それだけ……。
 でも、触れたいと思う。白金の柔らかな髪は肩甲骨を覆うまでに伸びた。あれが風に揺れる様は美しい。時折覗く白い首筋に指を這わせたら、どれだけ気持ち良いだろうか。薄い緑色の虹彩が潤めば胸が高鳴る……
 「……っ愚かしい」
 クロスツェルは立ち上がり、池の中に勢いよく踏み入って、女神が注ぐ水を頭から被った。
 「女神アリアよ。どうか私をお清めください。そうでなければ罰を……っ」
 聖職者が仕える神以外を想うなどあってはならない。
 故にこれは罪。浄められるべき悪。
 しかし、その想いは一年が過ぎても正されず、より強いものとなってクロスツェルの心を占めていた。



 「最近、顔色悪いんじゃないか?」
 礼拝堂での説教に向かう途中、ロザリアに顔を覗き込まれ、クロスツェルは体を竦ませた。
 彼女は、時を重ねる毎に明確さを増す彼の想いを知らない。
 無邪気なままで、少しずつ伸びる髪が女性らしさを引き立てて……。
 「熱とか無いだろうな? お前、この間も噴水に飛び込んでただろ。あれはもう止めとけって。聖職者でも風邪を引くんだからさ」
 クロスツェルの頭を爪先立ちでぐしゃっと撫でて、本当お前ってバカだよなーと朗らかに笑う。
 「……えぇ、そう……ですね。私は本当に愚か者です」
 数歩先を駆けて行く背中を見つめながら、ぎりっと奥歯を噛み締めた。
 彼女は女神アリアが人の世に遣わした聖女。自分は女神アリアに仕える聖職者。数歩離れたこの距離が正しい。これ以上は立ち入るべきではない。
 自らで強く引いていた境界線は、その日。礼拝堂に入ったロザリアによって砕かれた。
 「……ウェーリ!?」
 礼拝堂への入口で目を瞬かせたロザリアは突然、その男に向かって走り出した。男も驚いた様子で彼女を見返す。
 「チビ! いきなり居なくなったと思ったら、こんな所で何してんだよ?」
 親しげな手付きでロザリアの髪をくしゃくしゃと撫でた男は、褐色の
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